ぼくたちの失敗

21 ページ23

北山side

固まっていると、再び鳴るインターホン。

絡まってきたAちゃんの腕をほどき、玄関の扉の穴から覗く。

…やっぱり、藤ヶ谷先生だ。

医院で見る穏やかな表情は何処にもなく、鋭い瞳で扉のほうを見ている。

着信に出ないから、家まで来たのかよ…

想像以上の恐ろしさに固唾を飲んだ。

部屋に戻り、Aちゃんを起こす。

「Aちゃん、まずいよ」

「ん〜…？美味しいですよ〜、お酒…」

軽く揺するも寝ぼけた様子のAちゃん。

違うっつの。

「…藤ヶ谷先生、来てる」

俺の言葉にパチッと目を開ける。

顔がみるみる真っ青になるAちゃん。

とりあえず、目が覚めて良かった。

「やましいことはないけど、俺いたら誤解するよな」

居留守は通用しなさそうだし。

「…」

泣きそうになるAちゃんに俺は両肩をつかんだ。

「泣くな、大丈夫だから。とりあえず俺、クローゼットに隠れるから適当にやり過ごして」

ポカンとするAちゃんをよそに俺は玄関の靴を持ってクローゼットに隠れた。

「狭っ」

俺だから良かったものの、図体のでかい奴だったら入れないぞ。

「…ふふ」

「おい、笑うとこじゃないだろ」

まだ少し酔いが残ってるのかもしれないな。

「早めに帰ってもらえよ」

「はいっ。閉めますね…ふふ、」

まだ笑ってやがる。

もう俺、玄関開けてやろうな。

けど笑ってるから少し安心した。

同じ人間なんだから、片方が怯えたり言いなりになるのはおかしい。

頑張れよ。

…俺も頑張ろ。音たてないように。

しばらくして、玄関を開ける音がした。

微かに声が聞こえるけど、玄関と部屋の間にはドアがあり、更にクローゼットの中にいる俺にはあまり会話がはっきり聞こえない。

すると突然バンッと扉が開く音がした。

「ほ、ほんとに一人で飲んでたんです…」

涙声のAちゃんに低いテノールの声が畳み掛ける。

「Aは一人で飲みに行くような子じゃないだろ」

その通りだと思った。

彼女はきっと一人だったら食事だけして帰ったはずだ。
俺のダチの奢りで出たから飲んだんだろうし、一人だったら飲まなかっただろ。

「第一、一人で飲んでたとして俺がそんな事許すと思う？」

…はぁ？
こいつ、何様だよ。

あきらかに普通じゃないのに「ごめんなさい…」と謝るAちゃん。

すると会話が聞こえなくなった。

…何が起こってんだ？

「…あっ」

微かに聞こえたAちゃんの甘い声に、顔がカァッと赤くなった。

22→←20

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す