ぼくたちの失敗

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一人になった薬品庫で、震えていた身体も少し落ち着いてきた頃。

扉の向こうからなみちゃんの声がした。

「太輔先生〜、A見ませんでした？」

「…さあ」

「おっかしいなぁ〜」

先生となみちゃんの声がドア越しに聞こえる。

けどこんなグチャグチャな顔をなみちゃんに見られたくない。

静かになる廊下。

大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けていると、少ししてドアがノックされた。

誰だろう。

「あれ？北山さん。まだ帰ってなかったんですねー」

なみちゃんだ。

「うん、来たついでに薬品庫の在庫チェックしてくからさ」

「手伝いますよ」

「いや、大丈夫。ありがとね」

「はぁ〜い」

パタパタ、と足音が遠ざかった。

北山さん、ここに来る？！

私は棚の後ろに隠れた。

ガチャ、と扉が開き、北山さんが入ってきた。

北山さんがこっちに来たらそっと反対側に回って薬品庫を出よう。

さっきのことがあったから、今はとても顔を合わす気にはなれない。

「今から言うのは全部独り言だから」

…え？

「返事もいらないし、聞かなくてもいいよ」

優しい声で北山さんはそう言う。

「…」

私は北山さんの言葉を待った。

「Aちゃんが彼のことが好きならそれでいいし、俺がとやかく言うことじゃない。それはわかってる」

彼っていうのはもちろん太輔先生のことだよね…

「でも一緒にいて、片方だけが辛かったり無理していたり悲しかったりするのは違うんじゃないかな」

北山さんの口調はとても優しくて。

「俺だったら、好きな子にはいつも笑っていて欲しいし、笑顔にしてあげたいと思うよ」

その温かい言葉に止まったはずだった涙がまた流れた。

「うっ…ひっく」

北山さんはいつの間にか私の目の前に来ていて、私の前にしゃがみこんだ。

「悩みとかあるなら俺聞くし」

「…」

「その代わり、俺の悩みも聞いて」

…え？

「俺さ、いつもワックスつけてんだけど。年齢も年齢じゃん？ぶっちゃけ毛穴がどうなってんのか心配なんだよね」

毛穴…？

突拍子もない話に涙が止まった。

「毛穴って大事なわけよ。育毛シャンプーも毛穴がどうとか言ってるしさ」

じーちゃんハゲなんだよなぁ、って頭をわしゃわしゃする北山さん。

「…ふふ」

つい笑ってしまった。

北山さんもそんな私を見て柔らかく微笑んだ。

「ほら。やっぱ笑顔が一番似合うよ、なんつって。くさいな俺」

北山さんはあったかい人だな…

トクン、となる胸の鼓動には気づかないふりをした。

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