ぼくたちの失敗

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「こんちは〜」

午前の診察が終わりに近づきカルテの整理をしていると、入り口からスーツ姿の男性がはいってきた。

「あの、午前の診察の受け付けは終わりました…」

「あ、違いますよ。僕、日木薬品の北山って言います」

日木薬品さんはいつもお薬をお願いしている取引先だ。

「あれ、でも担当は嶺岸さんでしたよね？」

「それがアイツ、いきなり辞めちゃったんすよ。だから僕がこれからはこちらも担当させて頂きます。先生、今お手隙ですか？」

「あ、もうすぐ診察終わるのでお待ち下さい」

「はい」

北山さんはなつっこい顔で笑うと待ち合い室の水槽に気づき、それに見いっている。

…前の担当の嶺岸さんはおどおどビクビクしてたのに、真逆だなぁ。

患者さんが診察室から出てくると同時に、カルテを持った太輔先生が出てきた。

「次、また来週でいいよ」

私にカルテを渡すと微笑む彼に、北山さんが近づいてきた。

「こんにちは。お世話になってます、日木薬品です」

「…あれ？嶺岸さんは、」

「担当が変わりまして、これからは僕がこちらの担当をさせて頂きます。よろしくお願いします」

名刺を太輔先生に渡す北山さん。

「そうですか」

後に出てきた院長先生にも挨拶をした北山さんが帰って行くと、片付けを終えた歯科助手のなみちゃんが来た。

「え？今の誰？」

「日木薬品の新しい担当さんだよ」

「へ〜。私、ああいうチャラい感じの人タイプ」

「確かになみちゃんのタイプっぽいね」

きゃっきゃと話してると「石原さんは？ああいうのタイプ？」と太輔先生に聞かれた。

一応付き合ってることは隠してるから、彼は職場では名字で私を呼ぶ。

隠してる理由はただひとつ。釣り合わないから。太輔先生は隠すのは嫌みたいだけど。

「えっ、あ、いえ…」

「Aは太輔先生がタイプですよ〜っ」

「な、なみちゃんっ」

なみちゃんには私が太輔先生に片思いしてると伝えていて、なみちゃんは私の恋を応援してくれている。

ほんとはなみちゃんにだけはそろそろ話したいって思うんだ。

一緒に暮らすかどうかもなみちゃんに相談したいし。

「ほんとのことでしょ？」

私を小突きながら笑うなみちゃんに、太輔先生も嬉しそうに笑った。

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