溺愛ロジック F side

敗北 ページ33

『先生、思い出したんです、私。玉森くんを好きだったことを』

Aの言葉に目の前が真っ暗になった。

電話を切られ、何度かけても出てくれない。

結局その日は眠れないまま朝を迎え、学校に来た。

生徒達に囲まれてもろくに話も出来ずにぼんやり歩いていると、Aを見かけた。

軽蔑するような瞳で俺を見るA。

そんなAの表情は久々に見た。

けれど彼女はそうだったじゃないか。

俺に偽りの関係を植え付けられていただけだったのだから。

苦しい。

胸が張り裂けそうだ。

また俺に笑って欲しい。

でも彼女は頑なに俺を避け続けた。

まるで心の扉を閉ざしてしまったかのように、俺の気持ちは彼女には届かない。

こんなに脆いとは思わなかった。

あんなに傍にいたのに。

愛の言葉を囁き合ったのに。

…北山のいう通りになった。

すべてが偽物だった。

心が冷えていく。




すれ違う度に香る彼女の匂い。

ふとした仕草。

付き合っていたころと何らかわりない。

けれどもう彼女は俺のことを見ない。

それなのに俺はAから目が離せない。

Aしか映らない。

こんなに愛しているのに、届かない気持ち。

彼女を求めては止まない心。





玉森がギリギリになって進路を県内に戻したと聞いた。

あいつがAを避けていたのも、進路を県外にしていたのも、俺に引き離されないようにしていたのかもしれない。

馬鹿だったのは幸せにうつつを抜かしていた自分だった。

あいつは北山が辞めたのも俺のせいだと踏んだんだろう。

きっとこの機会をじっと待っていたんだ。

俺の嘘にようやく気づき、俺を過剰に避けるAを玉森は気がついているはずだ。

あいつが動くなら今かもしれない。

けれど卒業間近の今となってはどうにもならないし、もう何かを仕掛ける気にもならなかった。

だって俺は愛し愛される喜びを知ってしまったから。

論理的ではなく愛情に溢れた愛を。



だからAが選んで。

俺たちの結末を。

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