危うい誤解[弐] ページ9
屈強な肉体と磨き鍛えられた技術。
かじった程度の護身術。
どちらが勝つか、と言うのは愚問だろう。月島に、東谷は勝てない。しかし、抗うことは出来る。
痛みを我慢し、ベッド等を利用しながら距離を保ち、期を伺う。それでも、距離が縮まっていくのは流石としか言い表せないだろう。ついに、出口付近にて時が来る。月島の右ストレートが東谷の顔面に迫るのだ。
しかし、東谷はその拳を身体ごと右へと反らし、回避。月島の伸びた右腕を全力で引っ張り、右足で彼の左足を払い、バランスを崩せば月島を地に倒し、拳銃を押し付けた。出口付近、それは月島が投げ捨てた拳銃が落ちていた場所だった。東谷は最初からこれを狙っていた訳だ。
けれども、全ては幸運と偶然が起こした奇跡の結果だ。鍛えられた軍人が足払いされるだろうか?
そう、月島は反撃がこないと心の内で油断していただけであり、本来ならあり得ない結果なのだ。奇跡の結果は続かない。
押し付けられた拳銃を月島は空いていた左手で東谷の右手ごと払い飛ばし、瞬間に空いた右手を東谷の首へ動かし、力の限り左へ押すと同時、月島自身の身体も左に捻り、入れ替わるように立ち位置が、形勢が逆転した。
「良くもやってくれたな、この変人がッ!」
右手を東谷の首に、左手を彼女の右手を抑える事に使い、体を東谷の上にのせ身動きをとれなくする。完全に東谷の詰みだろう。
ググッ、と月島の右手に力が籠る。それと共に東谷から苦しそうな声が上がる。
東谷は、足をバタバタと動かすが無意味に終わる。月島は容赦なく、気が落ちるか落ちないかの瀬戸際で力をセーブし、苦しませており、東谷の気力を奪っていく。
しかし、それは誰かの一声でピタリと止んだ。
「何をしておられるのかな、月島軍曹殿?」
それは、東谷も月島も無意識の内なのか避けて争い、唯一無事だと言えるベッドの上から聞こえた声だった。
<東谷目線>
一時はどうなるかと思っていた。数日の内は目覚めないと思っていた男のお陰でその後は月島軍曹との誤解も解け、謝り、謝られた。
にしても、良く頑張ったと思う。あの月島軍曹相手に一度は攻撃し返せたのだから。とは言え、すぐに立ち場は逆転したが…。
それよりも…
「説明しろ、女」
あの聖人である勇作の兄とは思えないこの男が尾形百之助なのか。
高所落下後、北海道の真冬の川に落ち、凍死寸前なのに自力で川から上がったのは凄いが、この態度は誉められたものではない。
やはり、何処か癖のある集団だ。
34人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:文揚げ | 作成日時:2021年10月4日 17時