モルヒネは鎮痛剤である ページ6
＜東谷目線＞
「何をしているのですか、鯉登少尉殿」
先程の薩摩人は鯉登少尉と言うらしい。何故着いてきたのだろうか。
取り敢えず、鯉登少尉の事は月島軍曹に任せ、病室へと入る。
病室は簡素でベッドが五つ程並ぶ、日当たりが中々に良い場所だった。ベッドは五つ一つしか使われてなく、男が眠っていた。寝息が小さく、良く見ないと息をしているのかも分からない、死んでいるような印象だ。
この男が尾形百之助だと判断するのは容易だった。男の身にしては肌が白く、顎に髭、軍人なら坊主頭だろうが、今まで起きてない為伸びている癖の無い真っ直ぐな髪。何より猫の髭みたいな手術後が証拠だ。
「さて…そこの軍人霊、出てきてくれるかしら?」
先程から、私に霊圧をヒシヒシと当て、彼から遠ざける魂胆なのだろうが、生憎こちらは霊媒師。これくらいで怯みはしない。
すると、高身長の男がベッドを挟んで立つように現れる。軍帽のせいなのか、生前の問題なのか、目元が良く分からない。額辺りから血が流れている。尾形と何か関係があるのだろうか、と思っていたのも束の間…
「わぁぁ!俺が見えるのですか?嬉しいですっ!初めまして、花沢勇作と申します!」
「鯉登少尉殿や鶴見中尉殿以外の方が俺に気付いてくれましたよ、兄様ッ!」
「あぁ〜…寝ている兄様も美しい……兄様、勇作は兄様を死んでもお慕いし続けているのですよ」
私は、花沢勇作と名乗る霊を二度見した。そこは空気的に『何者だ?』等と悪人の怨霊で殺された恨みで祟ってました、とかそう言う流れの雰囲気だった筈だ。そしたら『お慕い続けているのですよ』だとか『美しい』だとか言っちゃっている。しかも『兄様』と言っているから、兄弟なのだろう。
「花沢勇作…さん?取り敢えず、落ち着いて貰っても?」
「あ、そうですね…すみません。寝ている兄様を見ているとつい兄様を(アレ的な意味で)襲いたくなるので、こうして声に出すことで紛らわしているのです。」
おい待て、今色んな意味で不味い事を言っていた気がする。どんな拗らせちゃんなのだろうか。
これは、とても面倒臭い。後、然り気無く聞き流していたが、先程の薩摩隼人こと鯉登少尉は、鶴見中尉共々見える人間らしい。忠告と言うのは勇作の事を言っていたのか…。
「それで、貴女は何をしに兄様の病室まで来たのでしょうか…?」
すっかり忘れていた。
私は、勇作に依頼について語る。勇作は、聖人らしき怨霊だ。こう言う霊が一番疲れるのだ。
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
