用心棒の定義 ページ28
<東谷目線>
私も理髪店から外を見ると、人集りが出来ており、尾形はその中心だと一目で分かる。
そりゃかの北鎮部隊様がケツアゴ署長の顎に鋏を刺して髪を引っ張り引き摺り回せば人集りも出来る。私は呆れ半分慣れ半分で
「さっさと終らせてくれないかしら」
と、呟く。
そうこうしている内に尾形はケツアゴ署長を離し、銃を構えれば、遠い向こう側の櫓(やぐら)の鐘へと見事銃弾を当てる。一度目は感嘆の声が上がった。
もう一度、今度は別の櫓の鐘を当てる。二度目は馬みたいな顔をした男が
「先生、こちらですッ!!」
と、平身で声をかけていた。
「ははぁっ」
尾形も髪を撫で整える仕草と同時に笑う。
ちなみに私は馬みたいな野郎の子分っぽい人達に尾形と一緒に案内された。案外気の効く人達だ。
「くるしゅうない」
「何遊んでやがる。行くぞ」
……遊び心が分からん奴め。
「…さっき、目的のジジイが居た。」
「隣に居た奴は日泥とやらだ。良いか、俺達の目的は?」
「はぁ……そのお爺さんと手を組むんでしょう?」
「抗争が起きて死んでたりはしないの?」
するわけない、と言う意を込めたのか彼は無視をする。私でなければ見逃していたね。
尾形はそのままケツアゴ署長まで近付き
「おい署長、そのケツアゴぐるっとケツまで切り裂いて全身ケツにしてやろうか?」
「意味がわかりませんッ!!」
「刺青について知っている事を全て話せケツ署長」
「全身ケツにするよりも、ケツを沢山つくりましょう」
「意味がッ、本当にわかりませんッ!!」
どうやら伝わらなかったらしい。お茶目と言うヤツなのに…。ケツ署長は完全に私達を怖がっている。怖がるのは尾形だけにしてほしいものだ。
その後、ケツ署長から話を聞いた。曰く、にしん番屋には隠し部屋があり、その隠し部屋に目的の代物その一があると言う。
馬野郎も話に加わり、以前、何とか日泥の妾を拐おうとしたが、拐った所で女将が実権を握っているから、意味の無い事らしい。
「妾の家に案内しろ」
尾形が話を進めてくれるお陰で私は何もしなくて済む。妾の家に、私は入らず尾形とその他だけで行く。私は家の前で待っていると、視線を感じた。
「……」
私は、私を見る老人を見つめ返す。何故かその場だけ、時が止まった様な、静かな時間とやらが流れた気がした。
老人はフッ、と笑うと人の波に飲まれて消えていた。
一体、なんだったのだろうか?妙に印象深い老人だったなぁ、と私は気楽に思っていた。
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作者名:文揚げ | 作成日時:2021年10月4日 17時