合理主義者 ページ27
＜東谷目線＞
｢薄情者ね｣
私は彼に、目の前を歩く尾形上等兵に思ったことを伝える。
私達は鶴見中尉に追われたものの、二階堂一等卒を身代わりにその場を掻い潜り、現在は小樽の端、茨戸の近くにやってきていた。小さな民家の集まりで妙な噂を聞いたからだ。尾形上等兵はその噂の代物……刺青人皮(イレズミニンピ)を探しているらしい。
｢合理的と言って欲しいなァ東谷A｣
｢あの場で助けに行こうものなら俺達は殺られていた。必要な犠牲と言うものだ｣
相手を見下す笑み、小馬鹿にする笑み、挑発じみた笑みを浮かべながら尾形上等兵は語る。確かにあの場ではそれが正確な判断なのだろう。私にも、それは分かる。ただ、彼との道中は、何だか少し寂しかっただけだ。それだけである。
｢尾形上等兵殿……もう長いから尾形で良いか｣
｢敬意ってもんを知らんのか｣
｢あら、それとも百ちゃんとでも呼ばれたかったかしら？｣
｢…………好きにしろ｣
と、言うわけで今後彼を尾形、もしくは百さんと呼ぶ事にしよう。ちゃん付けは流石に殺されそうなので、此処は‘さん’にする。その後も小さな、続かない会話をしながら茨戸を目指す。
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｢床屋へ行く｣
｢……もう好きにすれば良いわ｣
本当に言葉足らずな男だ、と何度目かの印象を刻み込む。その後は平和な道のりで、何不自由なく茨戸へ到着した。現在は昼頃だ。
近くの山本理髪店に入り、彼が髪を整えている間、私は自分の服装を見る。
薄紅色の袴に、茶色ブーツ。最近の流行らしい。とは言え、この難関な旅路で既に汚れてしまった。今度から動きやすい格好にしなければ、なんて思っていると
｢腕の立つお侍さんは何処に居る？｣
｢侍だなんて…時代遅れも甚だしいわねぇ｣
｢なんだァこの女？｣
｢そこのチンピラも……まぁ良い。俺の宿所場に来たばかりなら悪いこたァ言わん。馬吉ん所に行きな｣
少し、いやかなり話が見えてこない。
侍だとかヤクザと言い、何がなんだかはっきりわかんだね。そう考えていると、尾形が愛想笑いで満面の笑みを見せた後に、近くに合った髪用鋏を用いて男の特徴的なケツアゴにぶっ刺した。
ケツアゴが三つに割れた気がする。
｢ケツアゴ署長に聞きたい事がある｣
｢北鎮部隊ッ！？｣
尾形の軍服が見え、その肩章番号に驚き、署長は縮こまる。縮こまった署長の髪を強引に掴み外へ引っ張っていく尾形。
｢相変わらずの手際だこと｣
私は小さな拍手をした。
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
