本当の始まり ページ25
＜東谷目線＞
二階堂一等卒に出した指示は谷垣一等卒の足跡であれば何かしらの合図をせよ、と言うものであった。尾形上等兵は茂みに潜み、私はその後ろの木に姿勢を低くしながら待機している。
二階堂一等卒が合図を出した。どうやら谷垣一等卒の足跡だったらしい。しかし、尾形上等兵は動かない。寧ろ、何かまさぐって銃を構え始めた。
その次の瞬間、二階堂一等卒がヒグマに襲われる。
｢ヒグマだとっ……！？｣
谷垣一等卒の狙いはヒグマか！とすれば、今は尾形上等兵の位置を探る筈だ。近付いて首を絞めるつもりか、それとも突進か。何にせよ、接近してくる筈だ。私は木の影で警戒していると、尾形上等兵は発砲し、ヒグマを二階堂一等卒の上から退ける事に成功した。
そして、自分はここだ、と言う風に外套を剥ぎ、立つと、尾形上等兵は撃たれてしまった。
｢尾形上等兵殿！？｣
｢心臓部を……完璧に殺す為の一撃ね｣
だけど、狙うなら不安定な心臓より、確実な頭を狙うべきだ。頭なら、心臓よりも大きな、そして同等の価値を持つ脳がある。
｢双眼鏡……なるほど、運の強い人だわ｣
｢……ッ、ｶﾞﾊｯ…はぁ、不意打ちたァ上官に失礼な一等卒だぜ｣
｢軽口が言える元気があるなら大丈夫そうね｣
私が呆れ半分に呟くと、尾形上等兵は銃を再び構え、先を見据える。私には見えないが、尾形上等兵には谷垣一等卒と誰かもう一人居ることが分かるらしく、木が邪魔で撃てない谷垣一等卒より、そのもう一人の男を狙って撃つ。
｢ｺﾞﾎｯ、三島かなぁ…尾行には気を付けていたのに｣
どうやら、軍人だったようだ。
｢早く谷垣を殺さないと……ッ！｣
｢ちょッ｢死にたくないなら自力で屈め！｣……！」
突然強引に引っ張られたと思ったら、すぐ近くの木に発砲された後があった。遠くを見れば隊列なんて無い速度重視で馬を走らせていた軍人が居た。その先頭には見慣れた白い額当ての男、鶴見中尉が居た。
｢奴の頭は撃つな！｣
｢……早いな。一目置かれるどころか、上官から危険視されていただけはある｣
｢余裕ぶっこいてんじゃないわよっ！｣
今にも頭が撃ち抜かれそうなのに、どうしてそんなに余裕なのだろうか？にしても、良くあの三島とやらと連絡を取り合いながら行動出来たものだ。流石としか言えない。
すると、此方に来た軍人に向けて尾形上等兵は発砲。四人中二人に、致命傷とは言えない傷を負わせ、足止めする。
足止めされている内に私達は全力でその場を駆けていった。
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
