正気 ページ15
＜鯉登目線＞
「ゆ、ぅさくど…の？」
尾形百之助らしき人物から、懐かしい名前を聞く。確か、花沢中将の息子…尾形百之助の異母弟だったか？戦死し、もう居ない。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿兄様
何処からか、そんな声がした気がする。尾形百之助を見ると、寝惚けているような顔だが、確実にコイツは尾形百之助だった。
良く見れば、勇作少尉殿のお顔と似ている気がする……髭が邪魔だな。そもそも、あんなに優しい少尉殿とコイツは違い過ぎる。もう少し性格を直せ。ボンボンと陰口を叩くな。
…………落としたくなってきたのは悪くないよな？
「んあっ？」
目が覚め、第一声がそれで良いのか。黒歴史になるぞ。
尾形百之助は俺を見開いた目で凝視する。自然と目が合い、表情が確認出来る。
羞恥からか、顔をほんのりと赤くし、ひきつった笑みをしていた。眉間には皺が寄り、屈辱的だと語っているようなものだった。コイツにも人間らしい感情があったのか…。
「何故鯉登少尉が俺を横抱きで走っているのか分かりませんが……降ろしてくれますか」
「言われなくても…起きたのなら自分で……」
「鯉登少尉殿…？どうし………。」
俺が降ろそうと足を止めると後ろに気配を感じ、振り向く。すると其処には形容し難い‘ナニカ’が居た。
尾形百之助もそれを見て、冷や汗をかいていた。形容し難い‘ナニカ’はジリジリと近付いて来る。
コイツは駄目だ……逃げないといけない…！
気付いた時には先程よりも速く走っていた。尾形が苦しそうにしていて、Aを探している自分に気付いた。何故かAに頼れば、‘ナニカ’はなんとかなる筈だ、と無意識に思ったかもしれない。
「キエェェェェェェェェ！！！！！！！」
猿叫を上げ、Aを探す。
何人か兵とすれ違ったが、気にしてはいられなかった。
＜東谷目線＞
「あの少尉何処に行ったの！？」
私は医務室まで辿り着いていたが、中には鯉登少尉も尾形上等兵も居なかった。
あの羞恥行為を続けているのか？流石に尾形上等兵が可哀想に感じた。しかし、その感情即座に消える。
「どうしたの？百之助が見つかった？」
隣の宇佐美が何か言っているが、そんな事よりも大変事になった。
油断していた…！そもそも気付けた筈だ！
霊が集まり、一つの集合体になり始めているッ！恨み、妬みからの集合か…急速に集まり出したから気付けたが、不味いぞ。
「宇佐美、全力で鯉登少尉達を探すわよっ！！」
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
