アイヌのいろは ページ45
＜尾形目線＞
俺達はその後妙に胡散臭いエクロクと名乗る村長に案内され、家に入る。すると、段差を上がる際にヤクザもんの倶利迦羅紋紋(くりからもんもん)が見えたので、やはり、と理解した。此処は偽物の村で、大方酒を飲ませて酔ったところで寝首をかかれるだろう。
俺以外にはアシリパが何と無く感付いている。
｢アシリパ…｣
｢尾形か。どうした？｣
｢ここの村はきっと偽物だ。そこで、お前が分かるアイヌの知識で相手の出方を伺いたい｣
｢……！なるほど。良い案じゃないか。乗った！｣
理解が早くて助かる。その後、きっとアシリパなりに頑張ったのだろう。けれどもオソマはどうかと思う。もう少し上品に出来ねぇのか…、いや、それを言ったらAも負けず劣らずだな。今に始まった事じゃない。
｢ねぇ、ご飯まだなの？｣
この女は本当に……どうしてこうも危機感と言うのが無いのだろうか。馬鹿も大概にして欲しいもんだ。
そうだ、アイヌじゃねぇと言う事と共に少し危機感を覚えさせてやろう。優しい俺はAに近付き、公然の前で
──── 接吻した
｢杉元、言い忘れてたが俺達婚約した｣
｢ちょっと何言ってるか分からない、頭は平気か？クソ尾形｣
杉元の反応に思わず笑っちまうところだったぜ。んで、渦中の人物を見ると、ははっ、こりゃあ傑作だ。
｢……｣
顔を真っ赤にした霊媒師さんが俺を凝視してるぜ。そんなに見られると穴が開く。
｢あ、あ、兄様ｧ！？何をしてらっしゃるんですか本当に俺にやってください一生のお願いですからぁぁぁ！！！｣
｢うるさいですよ｣
これが一呼吸も無く出来ると言う肺活量に驚くが取り敢えず早口過ぎるので一喝。すると勇作殿は黙った。やれやれだぜ。
｢おい、いつまで呆けてんだ｣
｢……っ、お、尾形く〜ん？何やって、やってくれちゃってんのよ〜？｣
｢おぉ、怖い怖い。｣
｢こいつァ怖くてエクロクさんには早くアイヌの結婚式とやらを教えて貰わんとなァ？｣
｢はい？｣
｢東谷よぅ、そんなに結婚式がやりたいからと言って怒るのは止せよなぁ…ははっ｣
｢んで、エクロクさんよｫ…アイヌの結婚式ってのはどうやるんだ？｣
流石の偽村長も結婚式の知識は無いのだろう。当たり前だ。偽物なら結婚云々しない。必要最低限の知識で充分だからな。案の定慌ててやがる。
一石二鳥ってのはこれ指すんだな、と理解しているとAがギャーギャー騒いでいる。
｢うるせぇ｣
殴られた。解せぬ。
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
