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嵐の前の静けさ ページ17

鯉登に睨まれる東谷。しかしそれに臆する様子も見せず、彼女はため息を吐く。
宇佐美は尾形にこの場に居ない鶴見の魅力を語ろうとするが東谷がそれ制す。

「まず、尾形上等兵は…簡単に言えば別の人間の意識が移っていたわ」
「私達霊媒師の界隈でそれを‘憑依’と言うの」
「今朝の別人みたいな尾形上等兵。あれは憑依した霊よ」
「とは言え…あんなにハッキリと意識が乗り移ってたりするのは珍しいわ」

貴重な体験が出来て良かったわね、と嫌味たっぷりに東谷が語る。どうやら必要以上の労働に多少なれど不満を抱いたのだろう。
この話を聞いた反応はそれぞれ違った。尾形は無表情、鯉登は『キエッ…』と少し怖がった様子を見せ、宇佐美は半信半疑だ。取り敢えず、宇佐美、鯉登は鶴見に電報を打ちに行き、尾形は病室で安静にしている。勇作は依り代で大人しくしていた。

<東谷目線>

そこから近日中は何事もなく過ごせた。元々憑依されていたとは言え、体の状況によって動けない場合もあるが、尾形は完治に近かった為、動けていた訳だ。丁度回復していた、と言う証明にもなったのではないだろうか。
変わった事は、強いて挙げるなら小樽の兵舎が燃えたり、日露戦争の英雄こと‘不死身の杉本’と言う男の話題が上がったり、私には関係無い事だ。明日も平和な日になる。そう思っていた。

「脱走する。ついてこい」

「言葉足らずもここまで来ると病気に思えるわ」

その日の晩、突然私が借りてる部屋の扉が開いたと思えば武装した尾形上等兵が居り、脱走する、と言うではないか。しかも私の言い分を聞かず腕を引っ張り、窓から飛び出して行く。まさか人生で二度も窓から飛び出すなんて誰が思う?
暫くして先を見ると、寒そうにしていた双子の片割れが立っていた。最近妙に彼が尾形上等兵の病室に出入りすると思ったら、成程、脱走の計画を話していたのか。

「本当にソイツ連れてくんですか?」

怪訝そうな顔で私を見る。双子のどっちか分からない。目印が欲しい。

「あぁ、連れて行く。」
「コイツには利用価値がある」

尾形上等兵を見るとニヤリと笑みを浮かべていた。
彼は私の腕を話さず強引に引っ張り連れて行く。双子その1は後ろからついてくる感じで進む。
ある程度旭川の貴基地から離れると尾形は纏っていた外套(フード部分)を取る。

「あら、髪切った?」

私は尾形上等兵の変化に気付き、つい聞いてしまう。

「ハァ…今更か」

「ため息吐かないでくれるかしら?」

[閑話]道思わぬ側面→←霊媒師も楽じゃない



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作者名:文揚げ | 作成日時:2021年10月4日 17時

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