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Aにされるがまま、京都という街の清水という場所に来た。
有名な観光地らしく、様々な観光客で賑わっていた。
途中、抹茶のソフトクリームをAに一口分けた。
俺の手からソフトクリームを食べる姿を見て、俺の中の何かが疼いた。
髪を耳にかけながら舌を伸ばす姿は、どこか扇情的で、俺は少し顔を赤くしたかもしれない。
なんだかとてもいけないことをしているような気にもなってくる。
それと同時に忌ま忌ましい記憶もよみがえる。゛汚してやる゛と言われたあの日の独房を思い出した。
瞬間言いようもない嫌悪感に襲われる。
しかし美味しいと笑みを浮かべるAをみて、心が落ち着いて行くのが分かった。
どうしてAといると、Aの顔を見ると、心が落ち着いて穏やかになるんだ。
どうして穏やかなはずの心が、少し浮いているような感覚がするんだ。
わからない。
答えのでない自問自答を繰り返しながらAの話を聞いていると、少し広い通りに出た。
まだまだ坂は続くらしいが。
『次は八つ橋ね。生の方。』
今度は何を俺に食べさせる気でいるんだ。
、
その店は、一等観光客で混んでいた。
味見用に様々な八つ橋とやらがパックに入れられている。
Aも観光客にまざって味見しはじめた。
一週間ほど過ごして分かったが、ここが闇ではなく照らされた世界だからなのか、毒というものが一般に存在しない。
俺の過ごしてきた世界では毒が身近だったため、目の前の光景は少し異様だった。
しかし、俺もAに習って味見をしてみることにした。
どれもとりあえずは甘い。
しかし様々だ。柔らかい甘さや、ストレートな甘さ。少しつんとするものもある。
『ね、52。どれがいい?』
「………どれもうまい。Aが食べたいやつを買っていこう。」
『え?いいのよ遠慮しなくても。』
「いや、本当にAが食べたいのを食べたいんだ。」
『……そう?』
じゃあ、とあれこれAは選び始めた。
人も多いので、俺は品物が並べられた所から少し後ろに離れてAの姿を見ていた。
Aが楽しそうにしている。
ああ、
やっぱり、
どこかあたたかい。
これが幸せと言うのだろうか。
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作者名:ばんぶー | 作成日時:2020年12月6日 4時