こんにちは、52。 (ページ6)

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あいつは、俺の目を見てたまに綺麗ねと呟く。そんな訳がないのに。

一週間、こいつが俺に向ける瞳はずっと優しいものだった。その優しさに俺は十二分に甘えているのに。

見ず知らずの男を家において、あまつさえ歓迎会なんて。お人好しが過ぎる。

確実に、絆されている自分がいる。

やめろ、辛くなるのは自分だ、と言い聞かせているのに。

『タルトにしたわ』と取り出されたモノが、今まで見てきた何よりも輝いて見えて。

笑ったような気配がしてあいつに目を向けると、俺を見て優しそうに微笑んでいた。

その笑みを見て、錯覚してしまう。

今までずっと、長い間悪い夢を見ていたのではないかと。

今流れる穏やかな時間が、ずっとあったものなのではないかと。

しかし眼帯に触れる度に今までが現実なんだと、まざまざと思い知らされる。

『よし、切り分けられた。別にホールケーキじゃなくても良かったんだけど、ホールの方が気分上がるじゃない？』

さ、好きなの選んで。とタルトを指す。

『ほら。』

「…………これ、がいい、…」

Aは俺が選んだものを皿にのせて寄越すと、キッチンから珈琲を持ってきた。

Aが自分の分も用意するのを待って、一緒に食べ始めた。

『そういえば、私が出勤してる間貴方暇よね。』

唐突に投げられた、質問というよりは確認に静かに頷く。

『これ、読める？』

す、っと渡されたスマートフォンには文字が書かれていた。

「読める」

『そ、じゃあ明日土曜日だし、また一緒にお出掛けしましょう？この辺を案内しながら本でも買いましょ。』

「……すでにお前には色々と世話になっている。これ以上、」

『私がしたくてしてるのよ。』

ね？と見つめる優しい瞳に、また甘やかされる。

『じゃあお酒は明日かな。』

「酒？」

『飲もうと思って買ってきたのよ。でも明日出掛けるならやめとくわ。』

明日が楽しみ、というように笑ったAを見て、どうしようもなくタルトが甘ったるい気がした。

それでも病み付きになりそうな甘さに、また俺はフォークを向けた。