10.億劫 ページ14
「今日は泊まって行きなよ。胃が痛いんでしょ？」
「ああ…帰るのも億劫だ。」
珍しく俺の言うことを聞いてくれるデイヴィス。普段、泊まるかと聞くと、はあ？と眉を顰めてこちらを見てくるのだが、それほど気が疲れているのだろう。今回は少しばかり優しくしてやろうと思った。
寝心地の悪さに、珍しく早い時間に目を覚ます。なぜかと言うと、胃の痛いデイヴィスをベッドに寝させた為、俺は硬い床でのたうちまわったのだ。腰を痛めたのか、いつもよりうまく立ち上がれない。
「うーん…いてて……もう俺も32だもんな…」
32歳か…32歳か…頭の中で自分の声が響く。本当に32歳か…NRC生徒の時は、何歳だったか…
「…ぅ……」
「お、起きた？」
「……あ"ぁ…」
「…ふ、…」
年相応のしゃがれ声にやはりデイヴィスも俺と同い年だなと思う。笑いが堪えきれなくなって、思わず吹き出してしまった。
「…おい、何を笑っている…」
「いや、何でもない…んふ」
「何でもあるだろう…」
直ぐにいつも通りのデイヴィスに戻り、さらに笑いが込み上げてくる。場の空気を誤魔化すため、咳払いを一つして洗面所へ向かった。
顔を洗って寝癖を整え、部屋着のスウェットから洗濯したばかりでパリッとしたワイシャツを第二ボタンまで止め、ワイドデニムを履く。そして仕上げに長めの真っ黒なエプロンをつけた。
今頃、デイヴィスは二度寝を始めたところだろうから、朝飯を作ってやる。エプロンの紐を締め直し、手を洗い、冷蔵庫の中を見た。…卵、バター…くらいしかなかった。そういえば、この間買い出しに行くのを忘れたんだったか。棚には食パンのみ。これはもう食パンにバターを塗ってスクランブルエッグにして食べろと言っている様なものだ。もうそれでいい。あいつも別に文句は言わないだろう。
トースターに食パンをセットしてから、ボウルに卵を割って、適当に砂糖を入れて混ぜた。フライパンにバターを敷いたころ、後ろからデイヴィスの声がした。
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作者名：ユウ | 作成日時：2023年7月2日 6時
