_ 半生〜 ページ3
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だが、その代わりなのか彼の中では“憐れみ”という偏った感情が大きく育っていて、その夕飯を抜きにされたのが他者であるならば、文字通り憐れんで、自分の夕飯を分けてあげたりできる。
これは自分以外にしか向けられないことが玉に瑕だが、それでも他人と接していく上では哀が無い分、とても役に立っている。この感情のおかけで、彼は共に悲しんであげることはできなくとも、手を差し伸べることができている。
……しかしまあ、その動機が所謂“同情”であるということが知れれば、そのときには多大な反感をかうことにはなるだろうが。
下手なタイミングでその同情が露顕しないことを、祈るばかりである。
補足として。この彼でいう憐れみというのは、同じ立場にたって痛みを分かち合うというものではなく、単純にそこらを歩く虫が踏みつぶされるのを見て「可哀想だなあ」と感じるのと同じような感覚。つまり、根本的にいえば見下した、或いは自分とは全く違う弱い相手に対してかける情けを云う。
【半生】彼はとても裕福な家庭に生まれ、小さな頃から大きなお屋敷暮らしのお坊ちゃんだった。家にはお手伝いさんが何人も居て、不都合があれば彼ら彼女らがすぐに駆け付けてくれる、なんていう不自由のない暮らしを物心ついた頃から今に至るまで続けている。
しかし、小学三年生の頃、仲良くしていた筈の同級生から「お前、いっつもつまんなそうだから遊びたくねえ」とあっさり縁を切られてしまったことから、以来学校には一度も通えていない。家庭教師を呼んでいるので学習については問題ないが、上記した同級生からの言葉が今でも耳にこびりついていて、“つまらなそう”という言葉には人一倍敏感。また、人と楽しく話していると、「いつまた捨てられてしまうのだろう」と暗い思考がふと頭をよぎる為、度々気分を悪くしてしまう。
哀の感情なんて無いはずなのに、何故捨てられたことがこうも深い傷になっているのか。それは彼自身もよく分かっていない。
ただ、一つ思い当たる節があるとすれば、それは小さな頃の今は亡き母親との断片的な記憶。
「あなた、なんだかいつも"つまらなそう"じゃない。もっと可愛く笑えないの?」
彼女の吸う煙草の濃い煙が気道に入り込んできて、何度もむせる。顔を見上げて呼吸を荒げても、彼女と目は合わなかった。
「ほんっと、そういうところ……なんで
彼と居ると終始心底うざったそうだった母親も、やはりつまらなそうと口にしていた。
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