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加えて、彼は結構な読書家。そのおかげで、同年代と比べると語彙が格段に多い。会話の部分部分に年齢にそぐわないやたら小難しい言葉が飛び出してくるのも読んできた本の影響で、偶に本のフレーズを無意識に引っ張ってきてしまう為、なんとなくきざったらしい口調になる、ということも多々ある。
無意識に、というのは返す言葉が思いつかず、なんとなく脳内にあったフレーズを使っていたら、後々思い出してみるとそれは本の一節だった、といったもの。
しかし、それでも地は子供。その上、彼は普通よりも人と会話をするという機会が少なかった為、その分より言葉の扱いに不慣れである。
その為彼が使う言葉は、細かいニュアンスが違っていたり、なんとなく状況に合わない感じがしたりと、どこかズレていることも少なくない。
ただ、それは背伸びしてわざと難しい言葉を使っているのではなく、人と……ひいては同年代と話す機会がほぼ無いに等しく、自分の年ではどのような言葉遣いをするのが普通なのか、というのが解っていないが故。
彼とて大人への憧れがない訳ではないが、それ以上に大きな要因としてあるのは、彼の行き過ぎた世間知らずである。
また、言葉遣いは難しいものだが、節々に拙さが伺える、というそのちぐはぐさ。その点も、彼に前記した“親切”と同様の印象を与えている。
彼の感情は極端に表すならば、喜・怒・憐・楽、の四つのみだ。
喜怒は無論、他の人間と同じように。ただ、彼のことなので上手くそれらを表現することは難しいだろうが。楽は同様の扱いとして省く。
問題は、一つ残った憐である。哀、という感情は、彼には備えついていない。自分の夕飯を抜きにされても、「お腹が空いた」「劣悪な親だ」という程度にしか思わず、自分がないがしろにされていることに対しては微塵も悲しいと思わない。というより、本来悲しみであるはずのものが、そうではない別の感情に置き換えられてしまう、という方が正しいだろうか。この場合なら、哀は怒に置き換わる。
そしてこれを他者に当てはめたときにも、彼は変わらず悲しまない。それがどんなに親密な相手であったとしても、悲しむという選択肢が先ず浮かんでこないのだ。まあ、その代わりに相手を想って怒るということもするが、それでも悲しみに共感して優しく寄り添うなんてことはできない為、その点で相手との距離が生まれることも少なくない。
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