愛は故郷にありました。 (ページ3)

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故郷ページ3

Aサイド

フェリーってこんなに乗り心地悪かったっけ？
こんな硬い椅子だったっけ？

前に島に来たのはいつだろうかと考えると苦い思い出がよみがえってきた。
3年前に彼氏と一緒に来たのが最後だ。
あの時はこのままこの人と結婚するんだろうなと思っていた。
お互い結婚適齢期、交際も4年が経っていた。

でも彼の夢、子供が欲しい、そんな平凡な夢を私とは叶えることができないと知り彼は消えた。

母も父も桃の木も彼も私の前から消えた。

急に静かになったと思ったらフェリーのエンジンが止まっていた。
ゆっくりと出口まで歩くけど揺れるフェリーの上ではバランスをとるのが難しい。

フェリーから降りるのも一苦労。

ふーっと息を吐いて顔をあげると懐かしい景色、におい。
涙があふれ出てきた。

悲しいのか懐かしいのかなんで泣いてるのかわからない。でもほっとした安心感に包まれる。

タクシー乗り場にたまたま一台だけ停まっている。

「すみません、スーツケースあるんですがトランク開けてもらえますか？」

機敏な動きで降りてきた運転手さん。軽々と持ち上げてトランクにいれてくれた。

窓から見える景色はとても懐かしく東京に行ったことが間違いだったのかな、なんて今まで思ったこともないようなことを考えてしまう。

10分もせず実家に到着した。

「ありがとうございます。すみませんがスーツケースおろしてもらえますか？」

嫌な顔もせずにまた軽々と持ち上げて出してくれた。

家の鍵を開け中に入る。
空気の入れ替えを高校の時の担任の先生が定期的にしてくれているおかげで黴臭さもなく、これなら快適に過ごせそうだと思った。

駅のホームで買った麦茶とバウムクーヘンちゃぶ台の上に置いてとりあえず寝転がる。

しゃがむのも一苦労。なんとか横になったところでスマホが鳴っているのに気が付いた。
誰だろう？

手を伸ばしても届きそうにない。もう一度起き上がるも難しい。

とりあえずひと眠りしたいと瞼を閉じた。

どのくらい寝ていたのだろう。
目を開けるとなんとなく外が暗いのがわかった。

シャワーしなきゃ、そう思いながらも体が動かない。こんなに体力奪われるんだね術後って。

さっきのスマホの着信が気になってなんとか体を起こした。
知らない番号だったけど留守電を聞いてまた罪悪感。

『今日必ず経過診せに来る約束でしたよね。連絡ください。』

少し怒ったような先生の声。