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屋敷に戻ってからのAは、街にいた時よりかは少し元気さが戻っているように見えたが、それでも普段と比べると沈んだように見える。Aは俺の言葉通り、屋敷に戻るとすぐに休む準備を始めた。
「申し訳ありません。思いの外疲れていたようで。残った家事は明日やりますので、師範もどうかすぐに休んでください。」
居間にいる俺に一言そう告げると、Aは暗い顔を見せた。Aはすぐに顔を俯かせると振り返って自室へと向かう。
このままでいいのか。このままあいつを放っておいていいのか。一人にしていいのか。街で見たAの今にも泣き出しそうで崩れ落ちそうな顔を思い出し、様々な考えが頭を過ぎる。
一人にしてほしいかもしれねェ。放っておいてほしいかもしれねェ。だが、それで一晩休んだからといって、Aが抱えたものは浄化されるのか?あいつが一人で背負うべきものなのか?
俺に出来ることはなんだ?
「待てッ、!」
気付けばAの後を追っていて、部屋に入ろうとするAの腕を掴んでいた。
「し、はん…」
驚いた顔をして、Aは俺を見た。それも一瞬で、Aはすぐに表情をコロッと変えて見せた。
「あはは、師範ってば何してるんですか?もしかして一日賑やかだったから途端に寂しく…」
「笑うなァ。」
ピタッとAの声が止む。
「辛いくせに、無理して笑ってんじゃねェ。」
掴んでいるAの腕が微かに震える。
「なんで…どうしてそんなことを言うんですか。」
街で見たあの顔が、目の前に現れる。
堪えて堪えて堪えて、溢れるものを必死に堪えるその顔が、俺の胸を苦しく締め付ける。
「お前のせいじゃねェ。」
「…水柱様からお聞きになったんですね。」
ビクッと体を揺らしたAは、顔を俯かせた。
「死にたくない、と!彼の最期の言葉が、声が、何度も頭で再生されて離れないんです!!」
Aが声を荒げて叫ぶように言った。
「私が殺したのです!私が彼の未来を奪った!私が…ッ!!」
叫ぶAの腕を引いて体を抱き寄せる。
「これ以上、自分のことを責めてやるなァ。」
Aは全身を震わせ、俺の寝衣をグッと強く握り締めた。
「今は俺の胸を貸してやる。明日からはもっと稽古をつけてやる。だから、今は全部吐き出せェ。」
それが合図かのように、誰かからの許可が下りるのを待っていたかのように、Aは俺の腕の中で声を上げて泣いた。
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瑠璃瑚(プロフ) - 釈迦様さん» お恥ずかしい変換ミスです…作中一通り見直して訂正はしたのですが、まだ直っていない箇所が有ればご指摘頂きたいです。 (2020年2月19日 20時) (レス) id: f99ae6b9f6 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃瑚(プロフ) - しらとぅさん» なんとお優しい、、ありがとうございます!>< (2020年2月19日 20時) (レス) id: f99ae6b9f6 (このIDを非表示/違反報告)
釈迦様 - 師範が市販…°。:(°ε°)ブフッ! (2020年2月17日 0時) (レス) id: bccea59c19 (このIDを非表示/違反報告)
しらとぅ(プロフ) - 瑠璃瑚さん» いえいえ!誰でもミスはありますよ!これからも頑張ってください! (2020年2月8日 20時) (レス) id: 785ac6cfee (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃瑚(プロフ) - しらとぅさん» ご指摘ありがとうございます!お恥ずかしい変換ミスをしてしまいました、、>< (2020年2月8日 20時) (レス) id: f99ae6b9f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瑠璃瑚 | 作成日時:2020年1月11日 14時