第198話「運命とは」夢野久作 ページ7
運命とは、覆せないものである。
……それは、ぼくが一番知っている。
ぼくが「ドグラ・マグラ」という異能を持って生まれたのも、マフィアに拾われたのも、多くの命を刈り取ったのも、太宰さん達にぼくが負けたのも、ぼくがおにぃさんを壊そうとしたのも、任務に失敗して組合に囚われたのも。
運命の神様はぼくに微笑まない。
ぼくを愛してはいない。
勿論、辛いしおねぇさんは羨ましいし憎い。
……でも、その反面金髪のおにぃさんに正面から神はぼくを愛していないって言われて、スッキリした。
ぼくは、運命なんて覆せるほどの力は持ってない、ただの子供なんだ……って、肯定してもらえた気がしたから。
「……私は、君も愛す。」
「君はそれを望んだわけじゃない。」
おねぇさんの、真っ直ぐなその言葉が、ぼくの傷を抉る。
この人は、ぼくを救おうとしている。
……ぼくは、望んでいないのに。
「……そうだよ、ぼくは望んじゃいない。」
扶けられることも、嫌われることも、人を殺すことも。
「……それでも、おねぇさんはぼくを愛してくれる?」
「勿論。……私と君は、似てるから。」
そう笑むおねぇさんに、ぼくは賭けてみようと思った。
おねぇさんなら、
ぼくと目線を合わせるためにしゃがんで微笑んでいるおねぇさんに、恐る恐る触ろうとしたその時……おねぇさんの表情が、不自然に歪む。
「お、おねぇさん……?」
「……女王の維持の為の消費体力が予想以上に激しい……!……気にしないで、大、丈夫。……Q。走って。真っ直ぐ、前に。そしたら車が有るはずだから、其れに乗って。」
「おねぇさんは……!?」
「……大丈夫、太宰さん達がきっと……。」
そう、青ざめた顔で必死に、僕を安心させようと微笑むおねぇさんの背後に、見覚えのある影が現れる。
「……久しぶりだね、Q。ご機嫌よう。……いろはは、貰っていくよ。」
「まっ……!」
ぼくの精いっぱいの抵抗は虚しく、おねぇさんは攫われる。
「……待って!待ってよ!!やっと、見つけたんだよ!!ぼくを……!」
ぼくを、愛してくれる人を、ぼくは守れない。
……運命には、あらがえない。
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作者名:業猫 | 作成日時:2020年1月6日 15時