第206話「最初は壱から」少女 ページ18
「……と、云う訳で先ずは社員との仲を深める為に暫く谷崎と共に行動して貰う。」
「ふふ、宜しくお願いします、いろはちゃん。」
「宜しくね、いろはちゃん。」
少し怖い顔でそう云った国木田さん。
一方、谷崎さん兄妹は微笑んでくれる。
「ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、宜しくお願いします……!!」
「大丈夫ですわ、いろはちゃん。誰だって最初は分からないものです。もしいろはちゃんが迷惑をかけてしまったのなら、私と一緒にその分取り返しましょう!!いろはちゃんは、それが出来る方だとナオミは知っております。」
私の手を取り、真っ直ぐと自信あり気にそう云ったナオミさんに、私は?を浮かべる。
「……如何して、そう思ったのですか?」
「其れは勿論……」
私の問いかけを聞くなり真剣そうな顔をしたナオミさんに、私は思わずごくり、と息を呑む。
「勘ですわ!!」
キラキラと目を輝かせてそう云ったナオミさんに、私は思わず「はぁ……。」と呆れ声を出す。
けれど、目の前の私の手を握った少女はそのまま自信あり気に「私の勘は当たりますのよ、何故なら勘と云っても経験や知識からの推測と考察を重ねて導き出された、謂わば私、谷崎ナオミの知識の集大成なのですから!!最も太宰さんや乱歩さんの其れには全く適いませんけれど。それでも兄様よりは秀でている自信も有るのです!!」等と云いながら、迫ってくる。
助けを求めて谷崎さんを見ると__
「……。」
……目を逸らされた。
どうやら実の兄である彼にも、彼女の暴走(?)は止められないようである。
かと云って私も暴走した人の対処に優れている訳では無いし(というか、そんな能力持っていたら悲しすぎるのだが)、対応に困っていたその時。
「こらこら、ナオミちゃん。いろはが困っているだろう?その辺りにして置き給え。」
「あら、太宰さん。そうですわね、いろはちゃん、失礼致しました。」
「い、いえ……。あの、太宰さん、有難う御座います、助かりました!」
私が頭を下げてお礼を言うと、太宰さんは少し驚いたような表情になる。
「あの、太宰さん……?」
「……嗚呼、失礼。何でも無いよ。ほら、谷崎君と敦君とナオミちゃんで見回りに行くみたいだよ。行かなくて良いのかい?」
「あ、そうですね、ではまた!」
そう云い小走りで私を待ってくれていたらしい3人の元へ駆け寄った私の背後で、太宰さんが何か言いたげな顔をしていたことを、私は知らない。
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作者名:業猫 | 作成日時:2020年1月6日 15時