第171話「奇妙な人形」夢主 ページ29
「いらっしゃい。……おや?懐かしい顔だな。今日はどんな仕事だい?」
「この街を救う人形の製作依頼さ。数はざっと1000ほど。」
そう云った太宰さんは、懐から何やら図面を取り出すと彼に見せていた。
私は、少し後ろで其れを見ている。
何時の日かの如く、私はただ護衛に徹する。
太宰さんは私の全てだから。
……全ての、筈だから。
「ほう……。結構ややこしいな……。納期は?」
「出来るだけ早く。待っても1週間だ。三日……厭、二日で仕上げて欲しい。」
「二日、ねぇ……。」
彼は、太宰さんの言葉を復唱すると考え込んだように俯いた。
一分ほど経って、彼は真っ直ぐと太宰さんを見詰めるとニヤリと笑って答える。
「良いだろう、三日だ。最短で三日。奥の手を使えば二日で出来ないことも無い。……但し、代金は跳ね上がるぞ。」
「……嗚呼、勿論承知の上だ。承知の上だとも。」
私は外套の内ポケットに入れていた小切手を、彼に見せた。
……その額は
「……十分過ぎる額だな?」
「最優先でして頂きたい故です。……この依頼には、この街の未来が掛かっているのです。」
その額は、100万。
私の貯金のごく一部である。
特に趣味は無い上に、時間が無い故に収入の殆どを貯金に回していたマフィア全盛期時代の残りだ。
とは言え、大金である自覚は有る。
……けれど、大好きなこの街と比べれば、安い買い物だ。
「嗚呼、善いだろう。最優先で引き受けよう。この奇妙な人形で愛すべきこのヨコハマが救えるなら。」
「……え、奇妙な人形?」
優しく笑った彼の言葉に、私は思わず太宰さんの方を見る……と、少し頬を赤らめて恥ずかしそうに笑んでいた。
私は卓上に置かれたままの設計図を見るなり、溜息を吐いた。
太宰さんの洋服のセンスは超一流だ。
けれど、こういう人形なんかを作るセンスは丸っきり無い。
図面に描かれていた完成図は、卵のような奇妙な人形だった。
……何処か少し可愛いな、と思ったのはここだけの話である。
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時