第156話「少女の怒り」 ページ14
少女は少年を気に掛けていた。
ずっと、だ。
それは、出会った時から……否、出会う前から。
故に、少女は今まで決して見せなかった心の底からの怒りを露わにする。
少女が信頼し、慕っていた女のたった一言で。
「ふん……太宰は面倒な教え子ばかり持つのぅ。忘れろ忘れろ。貴様如き豎子の所業、端から誰も期待しておらぬわ。」
その言葉を耳にした少女は……すっと笑みを、感情を奥底に仕舞い込むと流れる様に、そのまま女の頬に
「……今、何と?面倒な教え子?期待されていない?誰がです?もし、其れが敦くんのことで有るならば……勘違いも甚だしい。姐様とは云え、命の保証は出来ませぬが。太宰さんも私も、敦くんに希望を、未来を、期待を見出して居ります。私達だけでは無い。社長から一端の事務員まで、敦くんに信頼と期待を抱いて居ります。……もう一度、云って頂けますか、尾崎紅葉。」
……少女の中で、女への信頼や敬仰が、地に落ちた瞬間で有った。
「…いろは、ちゃん。僕は、良いから……」
殺意と敵意が混ざった、重くピリピリとした空気は、何時此処が戦場になったとて特段不思議では無い雰囲気で有った。
そんな空気を破ったのは……他ならぬ、少年で有った。
少年は力なく少女に少し微笑みかける。
少女はそんな少年を見るなり、渋々といった様子で矛を収めたのであった。
「ふん……。それより、二人揃って善いのか?太宰の傍に居らんでも。戦争中であろう?」
「……太宰さんは交渉に向かった。政府の
「
少女は、少年から発せられた言葉を口の中で転がすように復唱した。
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時