第144話「胃腸の限界」夢主 ページ2
太宰さんが立てた三本の指を見た敦くんは、思わず……といった様子で「三つも?」と云う。
……と、太宰さんは不思議そうな顔をすると、少年の様につぶらな瞳で否定した。
「いや?三百だけど。」
「三百!?」
「敦くん、こんなことで驚いてたら太宰さんの部下は務まらないよ。太宰さんは予想の遥か上どころか、予想っていう枠をぶっ壊しに来るんだから。」
「ははは、そんなに褒められちゃあ照れるなぁ。」
真剣な表情でそう云う私に、太宰さんは笑って私を後ろから抱きしめて、私の髪や背中に顔を埋め、そして何故か深呼吸までしている始末である。
其れを見た敦くんは、少し不満そうに太宰さんを見詰めていた。
兎も角、私は「褒めては無いですけどね」と否定することにした。
「まぁそれは兎も角、敦君、いろは、戦況は生き物なんだ。必勝の秘策が、僅かな状況変化一つで愚策に豹変する。だから、情報が大切なのだよ。」
「特に敵の色に染まっていない、自身で集めた情報であることが重要。その上、今回は相手が相手。油断はそのまま敗北を意味する……ですよね、太宰さん?」
私は太宰さんの膝から降りて立ち上がると、くるりと振り向き笑ってそう云う。
……と、太宰さんは少し驚いた様な顔をしていたが、次の瞬間には微笑えむと「嗚呼、その通りだ。」と云って下さる。
深呼吸の後、太宰さんは真剣な表情に戻った。
「森さんは合理性の権化でね。数式の如き冷徹さで戦況を支配する。いろはが云っていた通り……刺客から逃れて気が緩む今を狙って、何か仕掛けてくるよ。」
……その時であった。
太宰さんは顔を顰めると、唐突に立ち上がる。
「……太宰さん?」
「どうしました、太宰さん?」
「これ……食べ過ぎた所為か、急に差し込みが……」
真っ青な顔でそう云う太宰さんの手には、いつの間にか空っぽになった袋が有った。
私と敦くんは、思わず呆れ顔になる。
「敦君、いろは。私と私の胃腸は此処が限界だ。探偵社を頼んだぞ。」
「ちょっ、太宰さん!?」
其れだけ云うと敦君に空の袋を押し付けて走り去る太宰さんに、私は大きな溜息を吐いていた。
「……云っておくけど、あの人は凄い人なんだぞ。」
私の背後では、敦くんがお利口に座っている犬にそんな事を云って居た。
事務員を運ぶ列車の到着まで、残り数刻……_____
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時