第186話「眠り姫・壱」夢主 ページ44
扉の中には、何も無かった。
まぁ予想範囲内…と、いうか床下収納に見えるものが地下室への通路へとつながる扉なのだろう。
私は其れを持ち上げて開けて辺りに薄く異能を張る。
…特に不思議な点は無い。罠は無さそうである。
私が淡々と作業している間も矢っ張りお二人…双黒の喧嘩は続いていて、背後からは
「いいか?仕事じゃなきゃ1秒で細切れにしてる。判ったら二
「あ、そう、お好きに。ただ私が死んだらいろははとぉっても傷つくと思うけれど。」
「……ちっ。…太宰、「ペトリュス」って知ってるか?」
「目玉が飛び出る程高い葡萄酒。確か、いろはが好きだった…。」
「嗚呼。手前が組織から消えた夜、俺はあれの八十九年ものを開けて祝った。そのくらい手前にはうんざりしてたんだ。」
「それはおめでとう。そう云えば、私もあの日記念に中也の車に爆弾を仕掛けたなぁ。」
なんて口喧嘩が聞こえて…って、え?
太宰さんの言葉に、私は思わず振り返って突っ込む。
私の突っ込みは、見事に中也さんと重なった。
「あれ手前かっ!」
「あれ、太宰さんだったのですか!?」
太宰さんがマフィアを抜けたあの日、自然と中也さんと共に太宰さんを探すことになった私は既の所で扉を閉めると爆発する類の爆弾に気が付き、何とか無傷で済んだものの、敵組織からの攻撃の可能性も高く私は其方の調査を担当することになり、私が太宰さんの居場所を特定するまでの時間も稼がれてしまい、余計に発見が困難になったのだった。
故に、私は暫く中也さんの車に爆弾を仕掛けた爆弾魔を呪っていたことを、今でも鮮明に覚えている。
「あぁ、気に食わねぇ。太宰の顔も態度も服も、いろはが慕っていることも含めて全部だ。」
「私もいろはが兄のように慕っていることも含めて全部が嫌いだね。好きなのは…中也の靴選びの
「あ…?そうか…?」
「うん、勿論嘘。靴も最低だよ。」
「手ッ前!」
矢張り、お二人は何時もの様に喧嘩なさっていた。
私は一歩先に目的地に辿り着いて居た。
間違いない、私に対して抱えきれないほどの憎しみを抱いていたあの少年だ。
「……助けを待つ、眠り姫様。」
私は、ぼそりとそう呟いた。
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時