【文豪ストレイドッグス】もういちど。肆【中島敦】 (ページ26)

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第168話「調査報告」夢主ページ26

時は1日が過ぎ、太宰さん達が事故に遭った次の日。
場所は講堂の片隅にある小さな倉庫。
其処に居るのは、私と太宰さんだけである。
……最も、扉を隔てた向こう側には何人かの社員が居る訳だが。

「……以上が現在行方不明になっている中島敦に関する調査報告になります。」

私は目の前で何やら考え込む太宰さんに、何時もの様に報告を終える。

私の作った資料を真剣な表情でじっと見詰める太宰さんに、私は少し不安になる。
資料に何か不備でもあったのだろうか。
最新の注意を払って確認した心算だったが、もしかしたら何かミスでも犯していたのかもしれない。
そう考えた私が太宰さんに声を掛けようと、口を開きかけた、その時だった。

「……空に浮かぶ組合の拠点……白鯨(モビー・ディック)、か。ねぇいろは。もし私が乗り込んで其処から落ちたら死ねるかなぁ？」

真剣な表情の太宰さんのその言葉に、私は肝を冷やす。

「んな!?急に何を言い出すんですか太宰さん！駄目ですよ、死んじゃ！善いですか、太宰さん。太宰さんは探偵社の作戦参謀です。そんな太宰さんが仮に死のうものなら、幾らかは私が代わりになれるでしょうが……取り敢えず、状況が傾いてしまいます！」

そう云った私に、太宰さんは悲しそうな顔で私を見詰めると、何を思ったのか、私の手を握る。
……本当にこの人の行動は読めないな……と思った瞬間だった。

「……そうすれば、いろはが死んじゃう。」
「そうですね……私、ほぼ確実に死ぬでしょうね。」
「其れは何としても避けなければ……。ふむ。私が死ぬのは此れ(・・)が終わってからにしよう。その時は私と一緒に死のうね、いろは！」

何時になく笑顔の太宰さんに、私は飛びっきりの笑顔で応えた。

「絶……対に厭です。」
「何で!?」

涙目でそう云う太宰さんに、私は溜息を吐くと答える。

「だから何時も云ってるじゃないですか。私の座右の銘は「求めるならば強欲に」。色々な世界を見てみたい、と一度思ったのですから、私は満足するまで死ねませんし死にません。死者の世界を観るのは、一番最後です。」
「……其れは、あの人の為かい？」
「……さぁ、其れはどうでしょう。太宰さんと云えど……これ以上は教える気は有りませんので。」

私は、何時もの様に微笑んで見せたのだった。