第141話「男と少年と少女と」 ページ49
「……太宰さん」
少年は、男に恐る恐る問いかける。
「何だい、敦君?」
男は、不思議そうに訊き返す。
「さっきの……
少年は、矢張り何かに怯えながらそう問う。
「どういう……って?」
男は、微笑んだまま、そう誤魔化す。
「えぇと、その……太宰さんといろはちゃんの付き合いが長い事は知ってますけど……探偵社では手に入れる事が出来ない技術だと思うんです。……前職からのお付き合いなんですか?」
少年は、目を泳がせながら、不安げに……けれど、確りと本心は伝える。
そんな少年に、男は微笑むと「さぁ。」と云う。
少年は男に答える気が無い事を察すると、大きな溜息を吐いた。
「……そう云えば、さっきからマフィアが仕掛けて来なくなりましたね。」
少年は、話題を変える事にしたらしい。
「嗚呼……そうだね。いろはが敵が私達と
男は、この場には居ない愛らしい少女__余談では有るが少年と男の想い人である__の名を出して理由を少年に教える。
「……いろはちゃんが?」
少年は不思議そうに云う。
此処は列車の中で、視界はお世辞にも善いとは言えないが、知人が居れば必ず気が付く場所だからである。
「嗚呼。……後敦君、余りキョロキョロとしていると
男は苦笑し乍ら、きょろきょろと辺りを見回す少年に注意する。
……と、少年はハッとしたように動きを止めると恥ずかしそうに真っ赤に顔を染めると小さくなった。
「す、すみません……。」
目を伏せてそう云った少年を、男は微笑んで見詰めている。
「否、私は気にして居ないよ。…却説、もう直ぐ目的地に付く頃だ。……いろは、出て来給え。」
男が少女の名を呼ぶと……誰も居ないと思っていた場所から、すっと少女が現れる。
「……御用でしょうか、太宰さん。」
少女はつぶらな瞳で不思議そうに、そう男に問いかける。
「……否、用という程じゃあないのだけれど……もうそろそろ降りるから、幾らなんでも気配を消したままでは一般人には不自然に見える。」
だろう?と微笑む男に、少女はそうですね、と微笑み返す。
少年は、仲睦まじい男と少女の会話に、疎外感を感じていた。
列車は少しずつ速度を落としていく___。
第142話「男の畜犬談(前編)」→←第140話「師からの久しぶりの命を。」夢主
6人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:業猫 | 作成日時:2019年7月10日 12時