検索窓
今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:7,384 hit

番外編「ルパンにて」 ページ27

黒髪の少女…暁いろはは、いつの日かの太宰のように酒杯の淵を指で撫でていた。
その背後から…そこまで高くはないスーツに身を包んだ男が入ってくる。

「…未成年が飲酒ですか。見過ごせませんね。」
「嗚呼…お久しぶりです。…大丈夫ですよ、これアルコール含みませんから。」

謂わばジュースです。と、少女は笑うように目を細め、答える。

「…太宰君は?君一人ですか?珍しいですね。」
「太宰さんは…まだ、彼の死を、振り切れていませんから。」

そう云う少女が座っているのは、よくその人が座っていた席である。
スーツの男…坂口は「貴女だって振り切れて居ないのでは?」とあの頃よく頼んでいた酒を頼み、口に運びながらそう呟く。

「…飲まないのですか?」
「飲みます。飲みますよ…。」

依然淵を撫で続ける少女に、男はそう不思議そうに云う。
すると、少女は真顔のまま答える。

「…嗚呼、甘い。物凄く甘い。甘くて涙が出そう。」

口に少し運ぶと、泣きそうな顔のままそんな言葉を口にする少女を、男はただ静かに横に座ってその言葉を聞いていた。

「…私、首領(ボス)…否、森さんに実は一つだけ、渡してない遺品が有るのですよ。」
「遺品、ですか?」
「えぇ。彼の遺品…いえ、正しくは彼の遺品で、彼の数少ない担当店舗の一つだった、私が殺したようなあの食堂の主人の遺品です。…彼が好きだった咖喱(カレー)料理手順(レシピ)帳です。食べた事有ります?凄く辛くて、火を吐きそうな位辛くて…美味しいんです。とっても。」

矢っ張り泣きそうな顔の少女を、男は横目で見ながらため息を吐く。

「…泣きそうですよ、貴女。痛々しい程に。」
「知ってます。知ってます…何度も、彼にも、云われましたから。…何故、私が常に笑むか分かりますか?出会って間もない頃、太宰さんが私に云ったのです。私は笑わなければならない、と。でなければ…私は痛々しくて、今すぐに消えてしまいそうだから、と。それが…私にした、最初の命令でした。」
「…じゃあ太宰君が来ないのが分かっているから_」
「えぇ、そうです。」
「貴女は真面目なのか、不真面目なのか…よく分からない人ですね。」
「…それで良いのです。」

私は、万人に好かれたいとは思わないですから。
少女と男がそんな会話を交わしたのは、“彼”…織田作之助の、命日だった。


____________________

最近織田作がツラくてたまらないです。この番外編を入れる位には。

第120話「侵入」夢主→←第119話「連絡の行き違い」夢主



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (4 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
6人がお気に入り
設定タグ:文スト , 中島敦 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:業猫 | 作成日時:2019年7月10日 12時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。