番外編「太宰さんの誕生パーティー・2」 ページ14
「……は?あと一時間かかる?」
『す、すまない……。俺の不注意だ……。』
思いがけない電話と願いに、いろはは思わず声を低くする。
「……代償は、私が前から気になっていた高級洋菓子店に財布として付いてくるってところで良い?」
『嗚呼……、頼んだ……。』
沈んだ声の国木田に、いろはは依然として怒りを示したまま、通話を切る。
「……さて、一時間……。どうしたものか。」
「一時間って何のことだい、いろは?」
「え?別に何でもないですよ。こっちの話です。……にしても、買えてよかったです。だって太宰さん、物凄い量を使うんですもん。折角ですし、何処か行きますか?」
「……!良いのかい、いろは!」
「えぇ、太宰さん、何処か行きたいところが有るみたいでしたし。」
パァアという効果音が聞こえてきそうな程、笑顔になる太宰につられるようにして、いろはも仕方ないな、とでも云う様に微笑む。
傍から見れば、さぞかし似合いの恋人同士に見えた事だろう。
「いろは!私ね、服屋に行きたいのだよ!」
「服屋、ですか?服は足りている筈じゃ……__」
「そうなんだけどそうじゃないのだよ!私、いろはに来て欲しい服が有ってだね……。」
「嗚呼……。良いですよ。付き合いましょう。」
そんなこんなで何とか一時間持ちこたえ、探偵社に入る、太宰といろは。
太宰が扉を開けた瞬間……クラッカーが鳴り響き、珍しく驚いた様な顔になる太宰に、いろは達は笑う。
「誕生日、おめでとうございます。これ、私と敦くんからのプレゼントで……これ、私達とお揃いなんですよ。ねっ!」
「うん。僕たち、太宰さんには感謝してるので……二人で選んだんです。良かったら身に着けて下さい。」
「……指輪か。けど、良いのかい?二人共。だって、これ私が付けなかったら婚約指輪みたいじゃ……__」
「やめてくれますか、そういういじり方!私達の善意を無下になさるおつもりで!?」
「ち、違うよ!悪いなって思っただけで……って痛い痛い!つねらないでくれ給え!」
「……これ、私が作ったの。……あの人のせいでやり直したけど」
「だから悪かったと云ってるだろう!」
「そうなんですよ、聞いて下さい、太宰さん!」
宴は始まったばかり。
楽し気な笑い声が、社からは聞こえてくる。
今日だけは、争いなんて忘れてただ、笑って過ごす。
そんなひと時の幸せを、みなそれぞれがそれぞれのやり方で楽しむのだった。
第62話「怒る中原中也(前編)」夢主→←番外編「太宰さんの誕生パーティー・1」
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年6月13日 11時