嵐の前の静寂 ページ1
「貴方……どうしてあのお嬢さんと結婚しないの?」
「そりゃ、Aが別に小生のこと好きな訳じゃないからね」
「でも貴方はあの子のこと好きじゃない」
「あぁ……そうだねぇ。好きだよ、うん……」
「それじゃダメなの?建前でも、あの子だって貴方のこと好きだって言うでしょう?」
建前だからさ、なんて。
答えたら、また君に笑われるんだろう。死神と人の子が、真っ当に愛し合いたいだなんて望むだけ馬鹿馬鹿しい。
でもその虚しさに気づいている以上、自分からあの子を手に入れたいとは思えなかった。
「何だか、嫌じゃないの……捨てられるのが小生だってわかってるんだから」
「……貴方らしいわ」
小生にだって、意地くらいあるからねぇ……
目の前の女は相変わらずの微笑みのまま、お揃いのメモリアルジュエリーを指で弾いていた。
この女とは似ているようで似ていない。まぁ、小生とAとは全く似ていないけどね。
兎も角、誰よりも長く付き合いのあるこの女とは、有難いことに価値観だけはよく似ていた。
いつまでも人の死を引きずって、喪に服して、時計すら止めたままのところとか。
ただ、根本は似ていようが、それとこれとは別問題で。
「いいなぁ、美人な彼女……私なんて此間また浮気がバレたのよ」
「ヒッヒッヒ……同情するところはないね」
代わりを探すのは此奴。
生き返らせようとするのは小生。
「小生のには、手を出さないでおくれよ……」
折角こんなに近くにいてくれる子を、この女に奪われちゃ堪らない。同性だからって安心できないんだよねぇ……
Aにしろ、此奴にしろ、まるで性別なんて気にせず、魂を見つめるように愛するから。
「手は出すかも」
「ちょっと、」
「でも、まぁ」
制する小生を、視線だけで黙らせるのはこの女だけかもね。女優のやるように、一つ一つの仕草を魅せ付けて、嫌味たっぷりに微笑んだ。
「お嬢さんに選ばせてあげないと、可哀想だわ」
自信ありげに笑う女の、癖のない、眩しいくらいに美しい銀髪が揺れた。
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足立甚(プロフ) - うっ...最高すぎた (5月25日 9時) (レス) @page25 id: a5c9d3b18a (このIDを非表示/違反報告)
ミィ - やったあぁぁぁ!!続編だ!!この作品大好きなので嬉しすぎます♡ (2021年10月3日 1時) (レス) id: d748bf27c1 (このIDを非表示/違反報告)
坂田銀糖(プロフ) - うわぁぁ、この小説を書いて下さいまして、ありがとうございます。応援してます。続きも気になりました! (2021年9月19日 8時) (レス) id: 4e79a91855 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Loot | 作成日時:2021年1月14日 22時