当 て 馬 基 質 II ( となりの坂田。)

当て馬気質 73 ページ28

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｢ ねぇ、A ｣


｢ ん？ ｣






坂田の声に、いつの間にか俯いていた顔を上げ 彼を見やる。坂田は、いつにも増して真面目な表情で、珍しいその表情に単純にも私の心臓はまたトクンと高鳴る。






｢ 俺が言った我儘でAが悩んでるの、分かってる ｣


｢ …うん？ ｣


｢ センラと見るって言ってた花火、俺と一緒に見ようって言ったので困らせてるよね… ｣


｢ …ま、まぁ…それは… ｣





突然私の心の内を晒してくれるもんだから、曖昧に返事をすると ごめんね、と自嘲気味に笑顔を零す坂田。けれど、すぐにその笑みも引っ込め また真剣な表情へと逆戻りだ。






｢ でも、Aを困らせたとしても俺は… ｣




坂田はそこで言葉を途切らせ、黙る。私はその言葉の続きを彼をじっと見ながら待った。
幼馴染みとして長らくやってると、含みのある言い方だって腹が立つなんて事はほぼ無い。待っていれば次がある、いつものことなのだ。
ーーーーなのだが。




結局坂田は、その言葉は置き去りのまま。
新しく言葉を紡ぎ始め。えーっとさ、なんて言葉に私は あ、うん…なんて生返事しか出来やしない。







｢ 今日、俺 教室で待ってるね ｣


｢ 教室… ｣


｢ 花火！…センラじゃなくて、俺と…俺だけと見て欲しいから。教室でずっと待ってる ｣


｢ …私、花火は… ｣


｢ ねぇ、A ｣







ーー先に誘ってきたのはセンラだ。だから、花火はセンラと見るべきなのだ。頭では分かっている。心でだって、センラと一緒に見て そのまま幸せになった方がいいって叫んでる。

ちゃんとそれを今。伝えようとしているのに。
そんなの関係無しに坂田はまた、私の名を呼んで。






｢ 僕を選んで ｣


｢ センラじゃなくて、僕を… ｣




そんな事を、苦しそうに切なそうに、言うから。









分かんないよ。分かんない。
どうして坂田が、そこまで私と一緒に花火を見たいのか、とか。私とセンラが一緒に花火を見るのが嫌なのか、とか。

私の都合の良いようにしか考えられないのだ。
今までの経験上、違うとわかっていながらも。期待して、胸が高鳴って、もしかしたらなんて気持ちが溢れて。





｢ …もうすぐ、本番だから。合わせといで ｣


｢ …わかった ｣





結局、坂田に対して センラの方に行く、なんて返事は出来ないまま話を逸らして 坂田と別れる。私は急いで舞台裏から離れ、ステージの見える所へと走った。

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