お引越し ページ1
結婚式を一年後に控えていた時期の事。
大きなビルが並ぶ土地から離れ、随分と走らせた車はある家の前でようやく止まる。
『ついたあ!』
車から出て大きく背伸びをし、自然の空気を体いっぱいに含む。
うるうると陽の光で煌めく水に、青々とした真っ直ぐな苗が生えた田んぼが辺り一面に広がる中、ぽつん、ぽつんと建つ日本家屋。
その中の一つであるこの家が、私の
いや、私達のこれから住む場所。
「お疲れさん、ちょっと休んでから片付け始めよか。」
運転席を降りて私のそばに来た一人の男性。
「どうや?改めて。」
『家?すっごく素敵やわ。』
「ほうか、なら良かった。あっちに住んどった時よりも色々大変やけど、無理させんように頑張るから。」
ふわりと笑うこの人は私の夫、北 信介くん。
20歳になった時に同居を始めた私達。
都心とまでは行かないが、最寄り駅もあって、徒歩圏内に商店街などがあったあちらとは正反対の環境で、今日から二人身を寄せる。
というのも去年、実家の畑を本格的に彼が引き継ぐことが決まった。
当時の家からこの土地はそこそこ距離があって、朝早く家を出て行かなければならないし、悪天候の日は稲の状態をすぐに確認できるよう、泊りがけになることもしばしば。
平然と振舞っているようで、彼の顔には確実に疲れの色が見えた。
そんな彼を見るに耐えれず、畑の近くに引っ越そうかと私から提案したのだ。
『ちょっと通勤時間が長くなるくらいやもん、大したことあらへん。』
信介「ちょっと所やない。」
『試合が近づいたら家を空けることも多くなるけど、寂しがらんとってな?』
信介「それは無理なお願いやな。さ、中入ろか。」
サラッと照れる事を言って私の腰に手を置き、鍵を開けて玄関へ入る。
『えー。無理なん?』
信介「おん。貴方がおらんと空っぽや。」
『無表情でそんなん言われてもなあ。』
信介「俺の事充分知っとるくせその言い方はずるいわ。」
『だって、好きなんやもん。たまーに見れる信介くんの照れた顔。』
そう言って彼を見ればジトーーーッとした目で私をみつめている。
この顔をした後は必ず
『苦しい〜笑』
甘えるように顔を埋めて、お互いの心音が聞こえるほどに抱き締めてくるのだ。
信介「…好き。」
『ふふ、うちも大好き。』
信介「ありがとお。付いてきてくれて。」
幸せそうな瞳で見つめてくる火照ったその人は
やんわり私の頭を撫でて、唇を奪っていった。
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作者名:あい | 作成日時:2020年6月5日 22時