謎解き遊戯のサイハテ

ある人？ ページ48

少女の話によると、島の人々は、ある人を崇拝しているんだという。


その人が、不要な外出はするな、嘘はつくなと戒めるんだという。


だが、“ある人”はいない。


もういない“あの人”を、島の人間は崇めていた。

莫迦な話だと思った。


乱歩には、島の人間が理解できなかった。

幻想怪奇の類は好きだが、彼はあくまでも現実主義者だった。

仏教やキリスト教、先祖の霊や神道のように
確立された、因果応報の崇拝対象を持たず、
“ある人”なる人物を崇拝するのはお門違いだと思ったのだ。


が、もはや島民にとって、“ある人”というのは、イエスに、ブッタに等しいのであった。

「……山があるでしょ、あそこの麓に社があるのよ。“ある人”の姿は誰も見たことがない。母さんが云ってた、“ある人”はね、今から四年前くらいから、いきなり信仰されだしたって。その
“ある人”の社がそこにある。中を見ようなんてしちゃダメ。

殺される。だから、行っちゃだめ。

ね？」

乱「ありがとう」

たった一言そう云って、乱歩はAを担いで出て行った。


彼女の体は自分が想像したよりかは少し軽かった。


引き摺らないように、何度も何度も担ぎ直す。

救われているのはどっちだろう。

A？それとも自分？

どうして自分は、ここまで彼女について来たのだろう。

一人で行かせても、良かったはずなのに。

どうして、何故？


とうとう答えは見つからないのであった。



坂の上から滑り落ちる陽炎が、頭の思考を絡めとった。

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