◆◇◆ D S H 5 ◆◇◆ 【S】

. ページ2

sideA



.





.



「安田くん！」



「おはよう！っても、もう夕方になるね。」



ジャージ姿の安田くんは
ジョギングの途中だったみたいで
立ち止まった私のところに走ってきた。



「学祭、お疲れ様！無事終わった？」


「うん。カフェは大盛況だったよ。」



何も知らない安田くんには
きっと悪気はなくて。


“無事に終わった”っていうのは
私にとって嘘じゃない範囲でっていう意味を込めて

カフェの大盛況だけは伝えて。



「安田くんも、大会だったんだよね。どうだった？」


「.....うん。準決勝敗退(笑)」


笑って話す安田くんに
普段とは違う、穏やかな雰囲気を感じて。



「そっか、お疲れ様だったね。」


自然に会話できることが
少しだけ嬉しかった。



「.....今日は、一緒じゃないの？櫻井くん。」



安田くんと並んで歩いて。
そんな事を聞かれても

今日はドキッとしないし
変に緊張したりしない。



「今、アパートで寝てるよ。すごく疲れてるみたい。」


「へぇ、大盛況だったんだもんね。打ち上げも盛り上がったのかな？
俺も参加したかったなー、残念(笑)」


「ホントだね。またみんなで楽しむ機会があったらいいな。」

なんて言いながら
学祭の日の事を楽しく話して、しばらく一緒に歩いた。



「.....泉谷、何かしてこなかった？」



急に安田くんが、そんな事を聞きだすから
心臓がギュって掴まれたみたいに苦しくなって。


「.....何か....って？」



言葉に詰まりながらも
知らんぷりする。


それでも、やっぱり嘘をつくのが苦手な私の事を
安田くんは、いとも簡単に見破った。



「.....なんか、あったでしょ？」


「やだなぁ、何もないよ(笑)」


これ以上詮索されないように
隣を歩く安田くんの顔は見なかった。



翔のアパートが見えてきて
少しだけホッとして。


「じゃぁ、私ここから右だから。」

交差点の別れ道で
安田くんと離れようとしたら


「.....俺、本気で心配してるんだからね。」



ふと目が合った安田くんが
いつもとは違う、真剣な表情で私を見ていて。



「.....ありがとう。安田くん。」


本当に心配してくれてるんだってことが伝わって
穏やかに返すことができた。


「.....じゃぁね。」



そう言って別れようとした時。


「.....Aっ！」


後ろから呼ぶ声がして

ものすごい勢いで翔が走ってくるのが見えた。



.




.

.→←ぎこちない、2人。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す