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「Aさん…いくつ書いた?」
『いくつ……だろ』
「ここに落ちてる案は、全部気に入らなかったの?」
『……はい』
藤ヶ谷さんがテーブルの周りに散らばる紙を拾い上げる。じっくり見た後、私に顔を向けた。
「こんな量の気に入らない案を書いたのに…それでも俺に頼ろうと思わなかった?」
『………』
「…はあ」
深くため息をついた藤ヶ谷さんは少し怒っていて、私は立ち尽くす事しか出来なかった。
「拾っただけで13枚。Aさんの事だから、捨てたりしたデザイン案もあるでしょ?」
『……』
「もちろん周りに頼らずにやる事は、偉いと思うよ。Aさんはしっかりしてると思うし、きっと仕事にちゃんと向き合う力があると思う。でも、」
藤ヶ谷さんは集めたデザイン案を、テーブルに静かに置いた。
「ちゃんと周りに頼らなきゃ。元々はAさんの仕事じゃないのに、ここまで追い詰められる必要はないでしょ?」
『…でも』
「でも、じゃない。北山に頼れないなら、俺に頼るなり、玉に頼るなり…そうじゃないと、今のAさんには耐えられないと思うよ」
プライベートも落ち着いてないのに、仕事まで大変だとキツイでしょ?って私の近くに来る藤ヶ谷さん。
ごもっともだ。断れない性格も、頼れない性格も、強がりな性格も。弱音を吐けない性格も。…ああ、全部全部面倒だ。
そんな面倒な性格を、何も言わずに理解してくれていた宏光は、短期間なのに私の中で大きな存在になっていたなんて、今更気づいても遅い。
「…全く、ここまでAさんを苦しめる必要ないのにね」
『…っ、……』
「追い込まれ過ぎちゃったね。…少しキッチン借りるよ」
座ってて、と私の両肩を押して、藤ヶ谷さんはキッチンに消えて行った。冷蔵庫開けまーす、なんて勝手に何かやってる。
2、3分して戻ってきて、これ飲んで落ち着いて、とホットミルクを渡してくれた。マグカップ借りたよ、なんて律儀に報告もしてくれる。
『……おいしいです』
「ははっ、良かった。これ美味しいよね。悩んだ時とか、落ち着きたい時に俺よく飲むんだよね」
『藤ヶ谷さんも…悩む時なんてあるんですね』
「あるよ。沢山ある。仕事もプライベートも、沢山悩むよ。その度に周りに頼る事は出来ないけど、無理だと思ったら頼る。そしたら必ず、周りの人は助けてくれるよ」
Aさんの周りも、助けてくれる人は必ず居るよ、って。
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作者名:ナナシ | 作成日時:2021年12月16日 17時