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「…ま、北山の事だし何とかすると思うよ」
『何とかする…って何ですか。まさか藤ヶ谷さん…浮気肯定派ですか?何とかして私と関係を持ってくれるって意味ですか』
「ふふ、Aさんネガティブになってるよ」
『だって…』


卑屈な女がまた出てしまった。はあ、とため息をついて、俯いた。


「そこまで落ち込んでるなら、手を貸してあげる」
『え?』
「北山って分かりやすいし」


顔を上げた私に、それに逆境に燃えるタイプだし、と笑う藤ヶ谷さん。何の逆境?

ん?って顔をする私に、時間も丁度いいし、と高そうな腕時計を見せた。さっきから何を言ってるか、さっぱり分からない。


「Aさん、ほら衣装制作しよう」
『え…あ、はい』
「ちょっと他の案も見せて」


よく分からないままテーブルの方に体を向き直した私。

そこにどれどれ?と、後ろから覆うように立つ藤ヶ谷さん。……近い。少し甘い香水が、ふわっと香る。

視界の端には藤ヶ谷さんの両手。テーブルにつく手には、綺麗な筋が見える。…触れられてないのに恥ずかしい。


「ん?どうした?」
『…いえ、何も』
「ふふ、分かりやすい」


耳の近くで話さないで下さい、と突き放したい。あまりにも近くで囁くから、ゾクゾクする。…うう、イケメンって怖い。


「で、衣装案どれだっけ?」
『えっと…』
「あ、これいいね。可愛いじゃん、A」
「可愛いじゃん、Aだと、ふざけてんのか」


もう耐えられない!と藤ヶ谷さんから逃げようとした瞬間、後ろから聞き慣れた声がした。心臓がドクっと脈を打つ。


「藤ヶ谷、どういうつもりだよ」
「ん?何のこと?」
「Aって呼び捨てたし、距離が近い。それに可愛いじゃんってなんだ。てか離れろ」
「強引だなあ」


グイッと引っ張られた藤ヶ谷さんは、力強いよって肩を摩る。

久しぶりに近くで見た宏光は、相変わらずかっこよくて。でも少し疲れてそうで、また胸がギュッと締め付けられた。


「藤ヶ谷、こいつは」
「知ってるよ」
「じゃあ尚更」
「別に今、デザイン調整してるAさんを見てただけだよ?」


調整って話を合わせてくれた…ってそれどころじゃなくて。宏光がなんか怒ってる。藤ヶ谷さんは涼しい顔をしたまんまだ。


「呼び捨てになってたのは、北山が話遮ったからだし、可愛いじゃんってのは衣装のことだよ?」
「…は」
「まあ距離が近いのはわざとだけど」
「おい!それも大問題だ!!」


騒ぐ宏光を見て、藤ヶ谷さんは少し笑う。


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作者名:ナナシ | 作成日時:2021年12月16日 17時

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