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「エスパーじゃないです。Aさんが顔に出やすいから分かるんですよ」
『…そんなに出てる？』
「あの瞬間でAさんが、彼のことを好きなんだなって分かるくらいには」
『相当じゃんそれ…』
届いたビールを私の前に置いてくれた鈴木くんは、でも彼は気づいてなさそうでしたね、って言った。
『…気づかれたら困る』
「どうしてです？」
『だって…イケメンだしジャニ…アイドルだし』
「…なんの偏見？」
枝豆をぷちぷち食べる鈴木くん。
『それに住む世界が違うし！』
「あーまあ…それはそうかも」
『家行ったらね、綺麗に東京タワーが見えたの。それだけで違うなって思っちゃった』
「家行ったんですね」
『…その時色々あってね』
上半身裸で出てきた宏光を思い出して、少し顔が熱くなる。何思い出してんだ馬鹿。
『…まあ私の片想いってこと』
「ふーん…片想い、ですか」
鈴木くんは何か言いたそうな顔をする。
「ま、今日は飲みましょ！」
『明日も仕事だから程々にしてよ』
「分かってまーす」
かんぱーい！って2度目の乾杯をする鈴木くん。調子の良い生意気な奴だ、なんて思うけど、その態度に何度も救われている。…宏光の事なんて忘れて私も飲もうっと。
と言っていた3時間後。
…ちょっと飲みすぎた。
Aさんってお酒弱いんですか？って隣で聞いてくる鈴木くんは、ケロッとしてる。ザルか。いや、ワクか？
『ちょっと調子乗って飲みすぎた…ふふ』
「うわ笑ってて怖ーい」
『久しぶりの飲みだったから…つい』
「ほら、もう着きますよ」
フラフラし過ぎです！と怒られた私は、また鈴木くんに送ってもらうことになった。この間のお礼なのに、何迷惑かけてんだか。
「はい、降りて下さい」
『はーい』
気分が良い。また仕事に追われる日々で、当分飲みに行けなくなるなって思うと今日は沢山飲んどいて正解だったかも。
「ほら鍵出して」
『あ、お金』
「いいから鍵出して下さいAさん！」
半ば呆れたように鍵を要求する鈴木くん。はいって渡せば、行きますよってエントランスに入る。
「…あら」
『え？なに？』
「またやっちゃった」
急に止まった鈴木くんの背中にぶつかる。身長180くらいあるんだっけ？高くて何も見えない。
『ちょっと…何止まってんのよ』
「こんばんは、北山さん」
『え？宏光？』
横から覗くと、また壁にもたれ掛かってる宏光。……なんかまた怒ってる？デジャブだ。
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作者名：ナナシ | 作成日時：2021年12月16日 17時
