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「…もしかして、Aさんの彼氏?」
『…いや、えっと』
「Aの彼氏ですけど、そちらは?」


低い声で言う宏光。…なんで怒ってるの。何でそんな嘘つくの?


「わ、本当ですか!すみません、彼氏さんがいらっしゃるの知らなくて…Aさんの部下の鈴木です」
「…部下」
『…私が体調悪いから送ってくれたの』
「すみません、誤解させてしまいましたよね。僕帰りますね。Aさん、明日有給消化して休んでください」
『無理よ、来週に仕事回せない』


来週に回したら…考えただけで身震いする。


「だーかーら!こういう時に部下使わないで、いつ使うんですか!」
『え?』
「幸い明日は外回りないんだし、しっかり休んで下さい!部長には伝えておきます!あ、ほらコンビニで買ったやつ、彼氏さんどーぞ」


宏光に袋を渡す鈴木くん。…ここまで気を遣わせて…上司失格だ。今度何か奢ってあげなきゃ。


「じゃあAさん、お大事にして下さいね!北山さんも、また!」


勢いよく頭を下げた鈴木くんは、軽やかに走って行ってしまった。


「あいつ今北山さんって言った…」
『…気付いてたっぽいね』
「…余裕ある男かよくそ」


ほら鍵開けて、と私の腕を掴む。久しぶりの宏光の匂いで、鼓動が速くなる。



「…で、体調悪いって何」
『えと……あはは、分かんない』
「…無理しすぎなんじゃねーの?」

私の部屋に当たり前のように入った宏光は、Aはベッド行け、と少し冷たく言う。久しぶりに会えたのに、嬉しいのは私だけなんだろうな。


『…お風呂入る』
「ん、いってらっしゃい」
『…うん』


ぼーっとする頭と重い体で、ゆっくり歩く。やっぱり熱を自覚したら怠くなってきた。鈴木くんここまで予想して動いてくれてたなんて、凄いなあ。



だるい身体に鞭を打ち、なんとかお風呂を出た。髪の毛乾かすほど元気がない。このまま寝ちゃお…。

脱衣所から出ると、いい匂いがする。…なんだろこれ。


「お、出た?」
『あー…ひろみつ居たんだ』
「風呂入って忘れてたのかよ」


私のそばまで来て、タオルで頭をわしゃわしゃ拭いてくれる。風邪引くぞ、って少し強引に。


「体調悪くなるまで仕事すんなって」
『んー…頑張ってたけど頑張ってなかったよー?』
「体はキツかったって悲鳴上げてるんだから、頑張ってたんだよ」
『んー…そうかなあ』
「そうだよアホめ」


わしゃわしゃわしゃわしゃ

ふわふわしてきた。


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作者名:ナナシ | 作成日時:2021年12月16日 17時

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