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「Aさーん、また飛んでますよー戻ってきて下さーい」
『…ああ、ごめんごめん』
「それにしても林さん、まさか妊娠までされてたなんて」
『いや…流石に私も驚いた』


帰りのタクシーで、驚きましたよね、なんて話す。

タクシーなんて乗らないで電車で帰ろう、と言ったのに鈴木くんは聞いてくれなかった。変なところ頑固。


「…で、Aさん。いつから体調悪いんですか?」
『え?体調?悪くないよ?』
「やっぱり気づいてなかった…」
『え?本当に悪くないって!』


Aさん静かにして下さいって鞄を漁る鈴木くん。何か取り出した…体温計?


『何でそんなもの持ってるのよ』
「朝からAさんが顔少し赤いなって思って。でも仕事中に言うと、気付いてないAさんが悪化するのもなーって。病は気からって言いますし」

会社のパクってきました、ほら測って下さい、と渡される。仕方なく脇に挟む。


「それに仕事中に言ってもどうせ帰らないだろうから、黙ってました」
『…まあそれは正解ね』
「あ、鳴りましたよ。見せて下さい」
『私が先に見る』
「いや、先に僕に見せて下さい。Aさん嘘つくから」


脇から無理やり抜かれる。鈴木くんって私の事を思ったより理解してくれてるんだな…ってぼんやり思う。


「げ、思ったより熱あった。38.2℃…高い」
『え?そんなに?』
「悪化しちゃったのかな…とりあえずコンビニ寄ってゼリーとか薬を買いましょう。運転手さん、コンビニ寄ってもらってもいいですか?」
『え、いいよ。自分で買えるって』
「いーえ。Aさんは買わない人なので僕が買います」


今日は黙ってて下さい、って睨まれる。部下にここまでお世話になる上司…弱ったものだ。



本当にコンビニに寄って、色々買ってきてくれた。タクシーで家の前まで送ってくれる。ありがとう、ってお金を渡すと、無視して鈴木くんが運転手さんにお金を払った。…ん?何でここで払う?


「ほら、Aさん行きますよ」
『え?いいよ、自分で動けるって』
「いーや、ダメです。家の前まで送ります」
『もう家の前だよ』
「部屋の前までって意味です」


ほら鍵開けて下さい、とエントランスに先に入る鈴木くん。至れり尽くせりで恥ずかしくなってきた。


『分かったよ、もう………え、ひろ…みつ?』
「ん?Aさん、知り合い?」

「…よ、A」


エントランスに入ると、端の壁に寄り掛かっている宏光が居た。



「誰その男」



…目が冷たい。


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作者名:ナナシ | 作成日時:2021年12月16日 17時

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