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『…うぅ、…ズッ…』
「こうやってAが泣いたら拭うし、泣き止むまで側に居る」
『…な、んで、そんな』
「優しいの？って？」
『…ん』
「Aだからだよ。……俺が、」
…何でもない。
少しだけ困ったように、ふわっと眉を下げて笑った。
「…ま、いーや。ほら、泣き止め」
さっきまで優しく拭っていた涙を、服の袖で雑に拭かれる。…痛い。
「せっかくの可愛い顔が台無しだよ」
『…かわい、くない』
「Aは、可愛いよ。だから笑え。な？」
私の頬を無理矢理押し上げる。笑えよーって。
…Aは可愛いよ
ドキッと胸が痛む。擦られた目も、撫でられた頭も、痛む胸も全てが熱い。
「ほら、夜はこれからだぞ」
宏光は緩くなったビールを飲んで、まじぃ…と顔を顰め、冷えたビールを求めて冷蔵庫に行く。
離れないで。
今は近くに居て。
心に浮かぶ声は、音として出ない。…出せない。
宏光のただの友人の私は、声に出してはいけない。
急に寂しくなる。この悲しさも、何なのか分からない。…分からない。
「ほら、ビール」
『ひぃ！』
「あはは、冷たかった？」
『冷たいよ！』
「ほら、緩くなったやつ俺が飲んであげるから。Aはこっち飲みな」
『…ありがとう』
沁みる。沁み渡る。
…あれ、私、まだ大丈夫だよね。好きになってないよね？
「ん？どーした？」
『…ううん、ビール美味しいね』
「ふふ、そうだな」
じっと見ると、ん？って私の方を向いて首を傾げる。ふふって笑うときの優しい雰囲気。
………あれ、後戻り、出来ないかもしれない。
宏光はアイドルで、私は一般人。そんな風に分けるな、って怒られるかもしれない。小さい壁だよって言うかもしれない。でも私にとっては、イケメンな事もジャニーズな事も、芸能人な事も。大きな壁だ。
「A？」
『なに？』
「なに？じゃないよ、犬と猫、どっちが好きかって聞いてた？」
『ああ…聞いてたよ。えっとどっちだろ』
「そんな質問してねーよ、さては聞いてなかったな！」
『ええ！騙したね？』
「聞いてないAが悪い」
『騙した宏光が悪い！』
なんだと！はーい、ビール交換でーす！
あ、やめてよ！
緩いのまじぃーのよ。
わ、本当に美味しくない。
それ飲めよ。
やだよ！返して！！
んふふ、やーだ！
…ねえ、宏光。私どうしたら良いかな。
好き、って苦しいよね。私、好きって大嫌い。
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作者名：ナナシ | 作成日時：2021年12月16日 17時
