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流れでぽろっと元彼の話を宏光にしてしまった。思い出しただけなのに、聞いて欲しかったのかもしれない。
でも本当に私の中で、彼は大きかった。
「…俺はAは分かりやすくて、素直で、真っ直ぐな人だと思ってるよ。仲良くなって浅いかもしれないけど、俺は少なくともそいつより、Aを理解してる絶対」
『…ううん、宏光は私の事何も知らないよ』
「いいや、知ってる。Aは分かりやすいよ」
絶対に元彼の方が知ってるのに、そんな事も分かりきってても、譲らない理由を教えて欲しい。
期間も濃さも負けてるじゃん…何言ってんのよ。
宏光は私の手を握った。
「それにな、Aは面倒臭くねーよ」
『…春夏秋冬、どれが好き?』
「は?」
『…どれ?』
「んー…夏かな。ライブはほとんど夏が多いし、そもそも寒いのが苦手で」
『私はね…選べない。どの季節も好きで、絞れないの。春の温かさは心地よいし、蒸し暑い中食べるアイスは大好き。秋の金木犀の香りは忘れられないし、冬の白い息は生きてる感じがして好き』
宏光は、そっか、と笑った。
『こういう小さな事が…面倒臭いって、言われたの。でも私も面倒臭いなって…思う。小さい頃からこのお題は聞かれても、答えられなかった』
「どれも好き、でいいじゃん」
『どれも好き、は、望まれた回答じゃないんだよ』
「どれも好き、俺は素敵だと思うよ」
真っ直ぐ、私の目を見て言う。握られた手は温かい。
「俺は冬の寒さが苦手だけど、その寒さをマイナスに捉えないのってAの強みだろ。何も悪い事じゃない」
『……じゃあ、野菜が苦手だけど焼肉に巻くサンチュは好きだとか、辛いのは苦手だけど、鍋の締めは辛さのあるチーズリゾットが好きだとか…こういう小さな事も沢山ある、』
「それも別に面倒臭くない。自分の事良く理解してる証拠だろ。食の好みがはっきりしてる方が、楽でいいと思うよ」
宏光は1つ1つ、ゆっくり私を掬い上げてくれる。
『…花は好きだけど、花屋に入れない。店員さんと話して決めるのが苦手なの』
「なら俺が買ってきてあげる。Aに似合う花、俺が持ってくるよ」
ツーっと涙が頬を伝う。宏光は優しく、また掬い上げてくれる。
「Aが今まで沢山否定されてきた分、これからは俺が全部認めてあげる。Aは真っ直ぐで、素直で、素敵な女性だよ」
今まで胸に刺さっていた大きな棘を、宏光は押し出してくれた。スーッと靄が徐々に晴れる。
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作者名:ナナシ | 作成日時:2021年12月16日 17時