丗壱 ページ32
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ぽちゃん。どこからか響いた水の音で、嫌な記憶の中から引きずり出された。
肌寒くなってきたこの頃、布団の中に埋もれるように眠っていた体が少し痛む。
『……まだ薄暗い。』
障子から薄らと差し込む朝日はまだ地を美しく照らすまでには至らず、ほんの少し影を移す程だ。
こんな時間に起きてもやることもないというのに、どうしろと言うのだろう。
『……鯉、ね。』
まだ鈍い体をゆっくりと動かし、重い足で立ち上がる。
自室から廊下に出れば、庭の松の木が風でかさっと動く。その下にある池の中でぽちゃんと、何かが跳ねた。
私を起こした犯人。それは池に住み着く鯉だ。
優雅に泳ぐ白と赤の斑模様をした鯉と、薄く光る金色の鯉は父がとても大切にしていたもので、池のほとりにしゃがみこんでは、甲斐甲斐しく餌をやっていた。
『今日は少し早いけど……お食べ。』
肌寒い中、上着も着ずに庭へと出て記憶に残る父の真似をしながら餌をばらまけば、2匹はちゃぽちゃぽと音を立てて餌を食べる。
……生き物が食物に群がるのはなんらおかしなことではない。食べねば死ぬ、だから食べる。他のものよりも食べ、力をつけ生き抜く。そうやってどんな生き物もこの世界を生きてきた。
わかっていたんだ、あの鬼が私に似ていることも、人間らしい表情で笑ったことも、全て全てわかっていた。
でも私はそれを塞ぎ込み、恨むことにより父という存在と、母という存在を永遠のものにしようとしていた。
私の記憶の中にある父と、父の記憶の中にあるだろう母を、そのままの形で遺しておきたかった。
『……いいわね、あなた達は。泳いでるだけで一日が終わる。羨ましいわ。』
夢にまで考えて、怒って憎んで、悲しんで、現実ではそれを全て取っ払う私は何なのだろう。
池の鯉にまで羨ましいと思ってしまう私は、一体何を獲れば満たされるの？
いつになったら、この呪縛から抜け出せるの。
母が鬼で、父は鬼の母に喰われて、私にあるのは父から託された母の形見だけで、私はそれで母を斬って、そのせいで母は死んだ。
挙句の果てに私は、ソレに喰われたいと望むの。
父が残してくれた、母が残してくれた命を、私はいとも簡単に捨てようとしていた。いや、しているのだ。
矛盾。その言葉が私の中を駆け巡る。
『……わからないっ……わからないの、』
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あるでんと(プロフ) - ぱんさん» コメントありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです。風邪は年末から年始にかけてすでにひいたので大丈夫だと思います笑 (2020年1月15日 23時) (
レス) id: 484fc6b4f6 (このIDを非表示/違反報告)
ぱん - とても面白いです！続きを楽しみにしてますが、すんごい寒いので体調に気をつけてくださいね！ (2020年1月14日 17時) (レス) id: 03bfdf54f9 (このIDを非表示/違反報告)
あるでんと(プロフ) - あさん» 童磨のキャラブレがとても心配だったので、そう言っていただけて嬉しい限りです。完結までは私のペースになってしまうと思うのですが頑張ろうと思っているので、これからもぜひ、よろしくお願いします。 (2019年10月27日 7時) (レス) id: ee9413cc7b (このIDを非表示/違反報告)
あるでんと(プロフ) - 狂狐さん» 返信遅れて申し訳ありません。勿体ないお言葉、本当にありがとうございます。とても嬉しいです。少しずつ更新していこうと思っているので、これからもよろしくお願いします。 (2019年10月27日 7時) (レス) id: ee9413cc7b (このIDを非表示/違反報告)
あ - 童磨さん最高です。すごく面白かったです、これからも応援させていただきます。 (2019年10月24日 17時) (レス) id: 87b58a18e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あるでんと | 作成日時：2019年7月20日 15時
