廿玖 ページ30
·
わかっていた。全て、わかっていたことなのに。
目の前の悲惨な光景は幼かった私を地の底まで突き落とした。
庭の土と砂利に染み付いた
皮肉なことにも、あの人の綺麗な顔だけはそのまま。青い瞳が虚ろな眼で天を仰いでいた。
《う……あぁ…ああぅ………ぅ》
『っ……ぁ。』
変わり果てた父の横で何かが動く。月明かりも当たらぬ夜にも映える純白の髪がきらりと靡いた。
その髪には朱が咲いていて、まるでいつかの絵で見た雪と踊る丹頂の様に美しかったんだ。
《…………ぁ》
私の漏れた声に、何者かはこちらを振り返った。
くすんだ紫の瞳が私を捉える。色白の肌はべっとりと濡れていてこちらを見ながらも口を動かし水音をやめない。
吐き気がした。胃の中のものが全て出てしまうかのようなとてつもない吐き気。
嗚咽は止まらない。あれはまぎれもない父だ。父なのだ。
なぜ、大切な。たった一人の家族が、あんな得体の知れない者の胃袋の中に入るために終わらなければならないのか。
『やめて……やめてよッ………それ以上私の父を無様にしないでッ……、』
良薬口に苦し。薬は病を治すために飲むもの。だがそれは酷く苦くて、よっぽどのことでなければ誰も飲もうとはしないだろう。
父もそうだった。薬を作って、人を助けているはずなのに必要とされるのは誰かが病になった時だけ。
それ以外は誰も頼りもしなければ、気味の悪い人だと言う者もいた。
父の何を知っていてそんなことを言っているのか。
人前で笑わないから？泣かないから？怒らないから？
それとも、私を男一人で育てているからか？
でもね、私には口に弧を描いて言うんだ。
“私は一時でも、頼りにされればそれでいいんだよ”
なぜ、なぜそんなに優しかった父がここまでの扱いを受けなければならいの。
『うぅっ……お願いッ……お願い…しますッ……父を、父をもう、喰べないでくださいっ………お願い、します、』
自分の命なんてどうでもよかった。ただ、醜くなる大切な人を見ていられなくて、私は膝を着き頭を下げた。
……水音が止まる。時が止まったかのように、何の音もしなくなった。
滲む涙を拭いながら恐る恐る顔を上げれば、
アイツはこちらを見ながらつぅっと、穢れない水を流していた。
·
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1227人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あるでんと(プロフ) - ぱんさん» コメントありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです。風邪は年末から年始にかけてすでにひいたので大丈夫だと思います笑 (2020年1月15日 23時) (
レス) id: 484fc6b4f6 (このIDを非表示/違反報告)
ぱん - とても面白いです！続きを楽しみにしてますが、すんごい寒いので体調に気をつけてくださいね！ (2020年1月14日 17時) (レス) id: 03bfdf54f9 (このIDを非表示/違反報告)
あるでんと(プロフ) - あさん» 童磨のキャラブレがとても心配だったので、そう言っていただけて嬉しい限りです。完結までは私のペースになってしまうと思うのですが頑張ろうと思っているので、これからもぜひ、よろしくお願いします。 (2019年10月27日 7時) (レス) id: ee9413cc7b (このIDを非表示/違反報告)
あるでんと(プロフ) - 狂狐さん» 返信遅れて申し訳ありません。勿体ないお言葉、本当にありがとうございます。とても嬉しいです。少しずつ更新していこうと思っているので、これからもよろしくお願いします。 (2019年10月27日 7時) (レス) id: ee9413cc7b (このIDを非表示/違反報告)
あ - 童磨さん最高です。すごく面白かったです、これからも応援させていただきます。 (2019年10月24日 17時) (レス) id: 87b58a18e6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あるでんと | 作成日時：2019年7月20日 15時
