ピエロガール (ページ11)

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人っ子一人いないロータリーに佇む私。
本当に大倉くんは来てくれるのだろうか。

そもそも顔の薄い私を見て、私だと気付いてくれるのだろうか。

「みっけー。」

「わ、……こんばんは、お疲れ様です」

キャップを深く被って黒ずくめの人がタクシーから降りてきたと思えば声は大倉くんで。
マスクを下にずらしてにこりと笑う大倉くんはやっぱり麗しい。

「うん、おつかれ。どっか入ろか」

「……はい」

とは言うものの、周りにはもうすぐ閉店するお店ばかり。
結局24時間営業のファーストフード店に入って、一番奥の席に対面で座った。

「で、どこからが嘘やったん？」

「ええ、っと。大倉さんのこと、最初から知ってました」

「うん、それから？」

「本当は、ああいう化粧とか髪型とか、好きじゃないんです」

ゆっくりゆっくり、白状していく。
怖くて目を合わせられない。テーブルの上のココアは薄く湯気をくねらせる。

「ヒールだって慣れてなかったし、スカートよりもスキニーの方が好きだし、ピアスもネイルも鬱陶しかった」

「うん」

「噂になるのは、私が良かった。」

なれるものなら、私が貴方と噂になりたかったんです。

自分でも怖いくらい細い声しか出なくて、それがまた私を萎縮させる。
ねえ、って机の角を叩く大倉くんに思わず頭を上げれば苦笑いにもとれるその表情で、私をただ見つめてた。

「うん、分かった。嘘はそれだけ？」

「……あと、もうひとつ。私本当は関西出身なんです」

「ええ？そうなん！？」

「え、そうです。すみません、黙ってて」

むしろそこで驚く？一番に気付くところや思うてたけど。
それでなかなか敬語無くならんかったんやあ！って笑う大倉くん。
ぱたりとまた表情を変えて私を見透かす。その目は少し、不安げに揺れた気がした。

「俺のこと好き言うてくれてたのは、嘘？」

「嘘じゃない、それは、本当です」

「……そっかあ、良かったああ」

安堵した様子の大倉くんはそのまま机に突っ伏す。
その衝撃でココアは大きく湯気を揺らした。

「どうせならもう一個嘘ついて」

「え？」

「幸せでした、なんて。ありがとうございました、なんて。嘘やったって言うてよ」

懇願するようなその瞳と声は私を刺す。
大型犬みたいな大倉くんは情けなく眉を垂らして。

「……うそつき。留守電聞いてるやん」

「うん、聞いた。聞いた後ショックで落としてん」

「ほんま？」

「ほんま(笑)」

なんかもう、私が泣きそう。