66*妖刀編その後8 ページ16
「……。」
自分の片腕で枕を作って、空いたもう片方の掌をかざした。
人を斬った感触が……
いつまでも離れることはない。
この掌は……
もう、ずっと前から血で真っ赤に染まって深く深く染み着いている。
今だって……
自分には血塗れた手に見えている。
そんな汚れた自分にも……
変わるなと言ってくれる人がいた。
護るべき者のためならこの手はどこまでも汚す覚悟は出来ている。
その『護るべき者』の中に今、背中に感じる小さな温もりも入っていた。
絶対に本人には伝えないが。
「……不思議なお人でさァ」
いつの間にか人々の懐に入っていて。
いつの間にか人々を惹き付けていて。
いつの間にか自分の背中を軽々と越えていて。
それなのに、自分のことはあまり明かさない。
掴み所が無いのは、きっと自分以上。
「……アンタは何者なんですかィ?
Aさん……」
その答えを……聞いてはいけない気もした。
根拠は無いが……。
動物的な勘と言うのだろうか。
その答えを……聞いた時。
Aさんが消えてしまいそうで。
「……まぁオレァAさんが何者だろーともいつも通り、いかせてもらいやすぜ?」
本人は聞いていないであろう言葉を一人呟いて、ムクリと起き上がる。
そしてAさんと向き合う形で胡座をかいた。
痛いほど真っ直ぐな瞳は瞼の奥に隠され、長い睫毛が覆っていた。
少しだけ開いた薄紅色の唇から零れる吐息。
白く抜けるような肌にかかる艶やかな髪に思わず引き寄せられ、触れてしまおうとしたが。
その手を引っ込めた。
……こんなこと、らしくねえ。
Aさんにも言われたのだから。
─……いつもみたいに……クソ生意気で─
─ドSで─
─土方さんの副長の座を狙ったり……─
それがどうやら本当の自分らしいから。
きっと、励まそうとしてくれたこの人の気遣いを無碍にはしないために。
自分は自分であるべき。
どうやって、それを表そうかと思い悩んだ末……。
オレはあることを
思い付いた…──────────
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作者名:モコ | 作成日時:2016年3月26日 21時