睡蓮 ページ36
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わっちが吉原に来たのは6歳の頃。父親から守ってくれていた母があの世に逝ってからすぐのことだった。
わっちの父は怒ると手がつけられないような人で、酒が切れると毎日のように母さんを殴っていた。
女は働き口がなく母さんはわっちを守りながら体を売って酒代を稼いでいた。
男たちの中には母さんのことが好きで、連れ出そうとしてた人もいた。
ある日、
ひとりの男が長屋の前で叫んでいた。
僕なら貴方をそんな目に合わせない、絶対幸せにしてみせる、と。
そしたら母さんは、こう言った。
私の幸せを勝手に決めないで、と。
母さんはどれだけ殴られても、どれだけ酷い扱いを受けても父さんの側から離れようとはしなかった。
初めて父さんがわっちを殴った日、母さんは嗚咽混じりの声で謝った。
“ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、大切な貴方をこんな目に合わせてごめんなさい”
“それでも私は、あの人を愛しているの”
母さんが大切にしていたのは、父さんと愛し合った証であって、わっちではなかった。
わっちは生まれた瞬間から、誰にも愛されていなかった。
「ここに来る子たちは恵まれない子が多いんだ。でももう大丈夫だよ」
切れた唇の手当てをして、紫に染まる手の甲を撫でながら楼主様はわっちを迎え入れてくれた。
「楼主様、名前はどうするでありんすか?」
「そうだなぁ」
楼主様は少し考えてから床板に生けていた白い花を見た。
「そうだ、“睡蓮”にしよう」
「そうだって、名前でありんすよ」
「わかってるよ桔梗、僕が思い付きで名前を決めると思うかい?」
その花は睡蓮と言うらしい。初めて見るとても綺麗な花だった。
「睡蓮の花言葉は“純粋な心”。君が心から笑えるように、僕も頑張るよ」
頭を撫でる楼主様の手は不思議と安心できた。誰かを殴る手しか知らないわっちに、痛くない手を楼主様が教えてくれた。
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きょう - 鳳蝶さん» コメありがとうございます!嬉しくなるお言葉ばかり…( i _ i )これからより楽しんでいただけるようにゆっくりですが頑張っていきたいと思います! (2020年8月7日 19時) (レス) id: 2087fbb169 (このIDを非表示/違反報告)
鳳蝶(プロフ) - この小説大好きです!いつも更新楽しみにしてますっ。きょうさんのペースでこれからも頑張ってください! (2020年8月3日 23時) (レス) id: 7170045398 (このIDを非表示/違反報告)
きょう - 一寸先はダークさん» 遅くなってごめんなさい!もうホントに嬉しいです( i _ i )ありがとうございます!書く度に文才くれってなるのでそんなに褒めてくださると嬉しいし元気出ます!これからも無理せず更新頑張ります…! (2020年5月30日 23時) (レス) id: 2087fbb169 (このIDを非表示/違反報告)
一寸先はダーク - あ、あの、文才神ってません???文章の書き方好みドンピシャ何ですが。銀さんの振り回されてる感じも良いし、夢主のマイペースさも良いです!!これからも更新無理せず頑張って下さい!応援してます! (2020年5月29日 7時) (レス) id: 771b180e53 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きょう | 作成日時:2020年5月5日 19時