59.茫然と ページ9
ソニアはユウリたちと祝勝会。
ルリナは実家でのんびりする。
一人残されたAは外で軽く食べようか、とも思ったが、ナックルシティでタクシーを降りて、見慣れたドアの前まで来ていた。
特にメッセージが来ていたわけではない。
ただ、
ドアの前まで来たものの、こういう時に側にいてほしいタイプか、一人になりたいタイプかわからない。
ひとまず、そのことはドアをノックしてから考えることにした。
「……キバナくん、わたし、Aです。ご飯まだ食べてなさそうだったから、テイクアウト持ってきたの」
そこから何と言葉を紡げば良いのかわからない。
しばらく黙ってから言葉を続ける。
「ドアノブに、かけておくね。あと飲み物も……連絡は落ち着いてからで良いから」
ドアノブに袋をかけようとしたところで、ドアが開く。
「……キバナくん」
Aとは違って泣いたわけではなさそうだ。
ただ、ぼんやりとしている。
ふっと、キバナは我に返って下手くそな笑みを浮かべる。
「おう、A、サンキューな」
「……おじゃまするね」
キバナの下手くそな笑顔に不安になって、Aは中に入る。
ダイニングテーブルにテイクアウトした料理を置くと、アルミ缶が開封した状態で置かれているのに気がついた。まあ、それもそうか。
「まだあったかいからこのままでい……い？ 」
キバナの方を向いた瞬間、その大きな体格に抱きしめられる。
「キバナくん、息……くるしい」
キバナの背中とバンバンと叩くと、腕の力が緩んだ。
キバナは何を言うでもなくAを抱きしめている。
「……そうだよね」
その感情を何と呼べば良いのか、Aは知らない。
キバナの頭を撫でて、Aも抱きしめ返した。
「………っあーーーーーーーーー」
しばらくそうしていると、何か言うでもなくそうキバナが声を漏らした。
「ちょっと落ち着いた？ 」
「ちょっとだけな。悪い」
「ううん、食べ物と飲む物持ってきたから……向こうのほうが良いよね」
そう言って、ダイニングテーブルに置いていた袋を片手に、もう片方の手にキバナの手をとってリビングへ進む。
案の定、テレビではダンデの試合が垂れ流されていた。
テレビの前のテーブルに、持ってきたものを広げる。
「ほら、朝まで付き合うよ」
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作者名：あくびさん | 作成日時：2020年10月31日 19時
