15.提案 ページ45
「Aならそう言うんだろうとは思っていたよ」
ダンデが寂しそうに笑う。
「私はもうとっくの昔の人だからね……無観客試合なら、考えてみてもいいけど」
デスクに並べてある他の招待状をちらりと見てみる。
ふと、懐かしい名前を見つけてAはそれを手に取った。
「へぇ、先生も呼ぶんだ。そういえば、ユウリちゃんってヨロイ島に行ったんだっけ、今はもう違うのかな。決裁をもう少し早くしてユウリちゃんにお願いしたら良かったのに」
「ああ、師匠の防衛記録はガラルの伝説だからな。ユウリの出発までにはローズ委員長の引き継ぎが間に合わなかったんだ」
懐かしい。
あの頃はミツバさんとはまだ結婚していなかった。道場を出てから結婚すると聞いて、おまけにとても若い人が相手ですごく驚いたっけ。
子供が産まれた時はもっと驚いた。幸せそうな写真は、リーグカードのマスタードとはあまりにかけ離れていたものだ。
「ダンデくん、最終試験受けられたの？ 森とか結構道がややこしいよね」
「ああ、オレは最終試験を受けられなかったんだ。今のリザードンならオレを案内してくれるんだろうがな」
ダンデはジムチャレンジの時からダクマもウーラオスも連れていなかったが、そういうことか。
「……道場にはタクシーで乗りつけた方が良いんじゃない？ 」
師弟を揶揄って、手に取った封筒を元に戻す。
Aのウーラオスは今や母の良きパートナーだ。
参加する前から穏やかな子だったし、バトルと縁遠い暮らしもそれはそれで幸せなのだろう。
1人はウーラオスを連れる弟子を輩出する道場だと思っていたが、どうやら違うらしい。
「道場に行くなら、予備の招待状をいくつか持っていったら？ 」
思いつきでそんなことを提案してみる。
ガラルの皆で強くなるなら、参加者は多い方が良い。
不思議そうな顔をするダンデに気づいて、Aは言葉を加えた。
「ほら、先生は今も弟子を取っていらっしゃるでしょう？ 私が道場にいた時も、ジムリーダー志望のお兄ちゃんがいたし、今も同じようなお弟子さんはいるんじゃない？ その中でも優秀な弟子を先生に選んでもらって、連れてきてもらえたらもっと……皆で強くなれると思うし、盛り上がると思うの。まあ、試合が増えて大変なのは私なんだけど」
予備の白紙の招待状を２つ、マスタードの封筒に重ねた。
「とりあえず、2人分で」
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作者名：あくびさん | 作成日時：2020年10月31日 19時
