14.招待状 ページ44
何度か訪れた高層ビル。どちらかというと嫌な記憶ばかりだが、この摩天楼の「今の」主人の呼びつけならば仕方がない。
修行の邪魔をされたフーディンを宥めながら、ドアの前に立つ。
ドアを3回ノックして、Aは返事を待った。
「どうぞ」
「失礼します」
いつも通りの返事。Aは声をかけてからドアを開けた。
「私はいつから元チャンピオン専属の使いぱしりになったの？ ローズ委員長の引き継ぎもまだ全部は終わっていなさそうだけど」
「すまない、今回は俺の一存では決められないことなんだ」
開口一番に冗談混じりに文句を言って、ダンデの机を見た。
以前より多少は社類は減ったが、相変わらず散らかっている。ローズ委員長が整理されたデスクを保っていたのは秘書の活躍が大きかったのだろう。
「確かに体制が変わってから私の立場も上になったけど、私が呼ばれるような話ってあったっけ」
「ああ、もう招待状は作ってあるんだが……」
「そういうのって決裁が下りてからやるんだよ、ダンデくん」
そう言いながら、ダンデに差し出された企画書に目を通す。
「……これって」
記された企画を流し読みして、目を丸くする。
ダンデの望みはガラルのポケモントレーナー皆で強くなること。その野望を実現するための足掛かりの一つというわけか。
「相談があるんだ」
そう言って、ダンデは封筒を机の上に置いた。
質の良い封筒には、Aの名が記されている。
「……開けて良いよね」
「ああ、読んでくれ」
辞令は体制が変わったときに出たからこんな早くに出るとは思えない。
警戒しながら封筒を開けると、中に一枚の紙が入っていた。
『招待状』
一行目のその3文字で、相談内容に気づいて弾かれるように顔を上げた。
「……宛先、間違えてない？ 」
「間違えてなんかないさ。キバナとのバトルも、ナックルシティでの避難誘導も、君の仕事も、とっくに噂になっている。君の試合をもう一度見たいと、ガラル中の人が思ってるはずだ」
ダンデは椅子から立ち上がって、名前の封筒から招待状を引き抜いて、その全文を示した。
そこにはしっかりとAの名が刻まれている。
「俺もAの試合を望む者の一人として、君の意志を問いたいんだ」
心臓がドクンと音を立てる。
私が？ もう一度、観客のひしめくスタジアムの真ん中に？
血がたぎり、ぞくりとする熱が全身をかけた。
……でも。
Aはふっと笑って招待状をダンデに返した。
「私が出場したら、誰に客席を守れるの？ 」
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作者名：あくびさん | 作成日時：2020年10月31日 19時
