季節間話3.75 ページ43
「今度こそちゃんと修行できると思うから……とりあえずご飯食べてからにしよう、ね? 」
中断された修行がやっとできる。そう勢いづくフーディンを宥めながらカレーを混ぜる。
バッグの中の、一番安全なところにはタオルに包まれた箱がある。
近くに置いておきたいが、修行で壊れそうで怖い折衷案だ。
. . . . ...
「本当に……してやられたな」
飾り付けられたモミの木よりも集めてしまった人目から逃れて、キバナが予約していたレストランに入る。
席に案内されるや否や、キバナはそう笑った。
「カジッチュを探すのに必死でつい……でも、その手袋も良いやつなんだからね」
「ああ、SNS映えしそうだな」
またそんなこと、と言いかけてAは口を閉ざした。
今頃とっくにSNSは大火事だろう。あんな風にカジッチュを渡してしまった後なのだから。
Aは嗜めるように苦笑して、スマホロトムを一瞥した。通知はまだない。
「オレからも、渡さないとな」
そう言ってキバナは、アクセサリーには大きな箱を取り出す。
このブランドは見たことがある。確か、カルネがモデルをしていたはずだ。ルリナが拡散していた。
「……開けてもいい? 」
「どうぞ」
断りを入れてから箱を開ける。中に入っていたのは、黒のキルティングレザーのベルトに、銀の四角いシンプルな文字盤の腕時計。
デザインはシンプルだが、良いものなのは見てわかる。
「腕時計……なるほどね」
Aはアクセサリーを身につけない。
指輪やブレスレットは何かの拍子に取れてしまうかもしれない。ネックレスは引っ掛けて窒息する恐れがある。
「それなら付けられるだろ」
「……うん」
嬉しそうに笑うキバナに、つられるように頰が緩む。
光を反射するキルティングに見入っていると、ワインが運ばれてきた。
「乾杯」
「お疲れさま」
グラスのぶつかる軽い音がした。
... . . .
「今日の修行はこのくらいにしよう、テント貼らなきゃ……」
ポケモンたちにそう呼びかけて、キャンプの準備をする。
テントを広げたタイミングで、スマホロトムの声がした。
『メッセージが来てるロトー! 』
「はーい、メッセージ表示して。誰から? 」
『「ダンデくん」からのメッセージロトー! 』
差出人に嫌な予感がする。
スマホロトムの画面を見て、嫌な予感は確信に変わった。
ダンデこの日、バトルタワーに来てくれ
「フーディン」
仕方がない。上司からのお呼び出しだ。
「ごめん、また中断」
164人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あくびさん | 作成日時:2020年10月31日 19時